内側広筋の肉眼解剖学的観察

DOI
  • 高松 敬三
    福岡和白リハビリテーション学院 理学療法学科

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タイトル別名
  • 変形性膝関節症との比較および大内転筋との関連性

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抄録

【目的】本研究の目的は,体表観察にて内側広筋縦走線維(以下,VML)と内側広筋斜走線維(以下,VMO)の羽状角を変形性膝関節症(以下,膝OA)と非膝OAで比較すること,内側広筋の形態的特性と変形性膝関節症との関連性を肉眼解剖学的に明らかにすること,VMOと大内転筋腱性部における筋線維の走行を検討することである.<BR><BR>【方法】解剖実習体 28体(膝OA:4体)を用いて,内側広筋(以下,VM)の筋長・最大筋厚・筋幅・羽状角を計測し,筋横断面積と筋体積を求めた.VMLおよびVMO羽状角は,上前腸骨棘および膝蓋骨中心を結んだ線と共同腱の最近位部に合流する筋線維とでなす角度および膝蓋骨に最も遠位で付着する筋線維とでなす角度を計測した.また,VMOと大内転筋腱性部の筋線維角を角度計にて計測し,大内転筋腱性部は起始・停止部を,膝部は膝蓋腱と膝蓋下脂肪体および膝蓋骨アライメントを観察した.これらをもとにVML・VMOの羽状角を膝OAと非膝OAで比較し,各測定項目との相関関係を求め,膝OAと非膝OAにおける各測定値の違いについてはt検定,筋体積との要因については筋体積を従属変数,筋長と筋厚・筋幅を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を用いた.また,膝OAと非膝OAにおける各測定値と羽状角の相関にはピアソンの相関係数を用い,危険率5%以内として検定した.<BR><BR>【説明と同意】倫理審査委員会の承認および同意を得て施行した.<BR><BR>【結果】VMの筋長の平均は膝OAが29.1±1.4cm,非膝OAが31.0±3.2 cm,筋厚の平均は膝OAが1.3±0.1 cm,非膝OAが1.8±0.4 cm,筋幅の平均は膝OAが5.8±0.5 cm,非膝OAが6.3±0.9 cm,筋横断面積の平均は膝OAが18.0±2.5 cm 2,非膝OAが25.3±9.3cm2,筋体積の平均は膝OAが104.0±20.6 cm 3,非膝OAが163.0±76.5cm3であった.膝OAと非膝OAの比較において全て有意差はなかったが,膝OAでは非膝OAと比して全てが小さく,なかでも筋厚は筋体積の減少と相関が高かった(重相関係数R2=0.96).また,膝OAのVMLは膝蓋骨に平均14.4±1.1°,VMOは膝蓋骨に平均41.6±1.9°の角度で,非膝OAのVMLは膝蓋骨に平均21.5±2.2°,VMOは膝蓋骨に平均48.5±4.7°の角度で付着していた.膝OAと非膝OAを比較するとVMLにおいて有意差はなかったが,VMOは有意差が認められた(P<0.05).しかし,羽状角と筋厚・大腿脛骨角との間に相関は認められなかった.非膝OAにおいて,VMO羽状角と有意な負の相関が認められたのは筋長(r=-0.29)であり,一方,膝OAにおいて,羽状角との間に相関は認められなかった.前額面と矢状面での計測において,VMOと大内転筋腱性部の筋線維角は膝OAと非膝OAのいずれも,同じ角度で同じ方向に走行しており,大内転筋腱性部は坐骨枝・坐骨結節から起こり大腿骨内側上顆の内転筋結節に付着しているのが観察された. <BR><BR>【考察】膝OAの筋厚と筋体積・筋横断面積・VML・VMO羽状角は非膝OAと比較すると全てが小さい傾向を示しており,膝OAの筋体積の減少には筋厚の関与が高いことが認められた.膝関節の機能障害により膝蓋骨アライメントなど変化することもあるが,本研究において膝OAでは膝蓋腱の弛みと膝蓋下脂肪体の萎縮および膝蓋骨低位を呈しており,VMO羽状角は非膝OAと比して有意に小さい値であった.これらの形態や構造の結果,大腿四頭筋の萎縮がおきることで中枢方向への牽引力が弱まり膝蓋骨低位となり,これらが膝OAのVMO羽状角に影響を及ぼしていたかもしれない.また,大内転筋の腱性部は,起始・停止部の位置関係から股関節伸展にも作用するといわれるが,VMOと大内転筋腱性部の筋線維角は膝OAと非膝OAのいずれも,同じ角度で同じ方向へ走行している傾向にあり,大内転筋腱性部の起始・停止部の観察においては股関節伸展にも関与するという報告と一致するものであった.このことより,膝OAにおいても大内転筋腱性部の活動は内側広筋の収縮効率に影響を及ぼす可能性が推測され,理学療法においてVMOの収縮を促す場合,股関節伸展運動を加味することは有用と考えられる. 本研究より,内側広筋の形状は膝OAと非膝OAにおいて相似形ではなく,形態的・構造的に差異を伴っている可能性が示唆された.今後は,本計測方法の妥当性について検討をすすめたい.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】羽状角は筋収縮力に影響を及ぼす因子として重要な役割を果たすものであり,理学療法を行う際の運動方向との関連性が深いことが推測される.本研究は内側広筋と大内転筋の形態および構造を肉眼的に明らかにし,内側広筋に対する効果的な理学療法は膝OAにおいても同様に適しているか否かを検討することであり,理学療法士にとって重要な機能解剖学的知見を得られるものと考える.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI1040-AbPI1040, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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