思春期における脛骨顆間隆起と大腿骨顆間窩外側の近接領域から見た変形性膝関節症発症のリスクファクター

DOI
  • 蒲田 和芳
    広島国際大学 保健医療学部 理学療法学科
  • 生田 太
    広島国際大学大学院 医療・福祉科学研究科
  • 牧野 直美
    朋仁会整形外科北新病院 リハビリテーション科
  • 松本 尚
    朋仁会整形外科北新病院 リハビリテーション科

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抄録

【目的】<BR> 変形性膝関節症(膝OA)は65歳以上の高齢者で推定13%を占める。膝OAは脛骨大腿関節の内側コンパートメントで最も頻発する。多くの諸家によりBMI、膝アライメント、筋力、膝キネマティクス、活動レベルなどのバイオメカニカル的要因が膝OAの発症に関与していると報告されている。しかしながら、内側型膝OAの原因となる単一のバイオメカニクス的要因を特定した研究は存在しない。<BR> 膝OAにおける脛骨の外方偏位はX線所見でよく見受けられる。この所見は動的RSA法を用いた研究においても示唆された(Saari 2005)。また、早期の膝OAにおいて脛骨顆間隆起の前方に骨棘所見が見られる。仮に、脛骨の外方偏位により顆間隆起の外側顆間隆起が大腿骨顆間窩の外側部まで移動すれば、脛骨外側顆間隆起に大腿骨の接触が観察されるはずである。大腿骨外顆が脛骨高原の外側顆ではなく脛骨隆起に乗り上げるとすると、関節軟骨の退行性変化がない時期においても内転モーメントが発生する可能性がある。<BR> 本研究の目的は顆間隆起の外側偏位が思春期に生じているかを検討することである。仮説は『青年期の脛骨外側顆間隆起と大腿骨顆間窩外側の接近が観察される』 とする。<BR>【方法】<BR> 対象者は平均年齢14歳の男女10名、計20名40膝とした。包含基準は12~16歳、健常な男女とした。除外基準は下肢に既往がある者、MRI禁忌者とした。膝完全伸展位でのMRI撮像(0.4T、MR acquisition: 3D、Slice Thickness: 1.0 Repetition Time: 38、Echo Time: 11.4s)を用い、市販ソフト3D-Doctor(Able software社)を用いてセグメンテーションを行い、各々の骨モデルを作成した。次に自作ソフトVHKneeFitterを用いて脛骨に解剖学的座標系を定義した。内・外側の顆間隆起の高さと傾きは、骨モデルを後方から観察して求めた。また、当研究室で開発した3D-JointManager(GLAB社)により、大腿骨と脛骨の骨同士の接近領域を定性的に評価した。<BR> 統計は、内外側の脛骨顆間隆起の高さと傾きに対して、反復測定二元配置分散分析を行い、post-hoc testにはTukey 法を用いて、有意水準をp<0.05とした。<BR>【説明と同意】<BR> 研究内容に関する十分な説明の後、ヘルシンキ宣言に基づいて作成された同意書への署名により、本人と保護者に同意を得た。<BR>【結果】<BR> 男性では外側顆間隆起高が、内側顆間隆起より有意に低かった。女性では男性より内側顆間隆起高が有意に低かった。男女において、外側顆間隆起が内側顆間隆起より傾きが小さかった。また、近接領域では最接近部が外側顆間隆起の1点であるか、もしくは外側顆間隆起と脛骨内側プラトーの2点であった。<BR>【考察】<BR> 本研究の主要な知見として、男女において外側顆間隆起の傾きが内側顆間隆起より有意に小さく、また定性的評価により大腿骨と脛骨の最接近部は外側顆間隆起と脛骨内側プラトーの2点であった。<BR> 本研究では軟骨を除外した骨モデルを使用しており、この知見は軟骨と軟骨の接触領域ではないことに注意すべきである。しかしながら、関節の変性や外傷などがない若年者の膝関節を対象として骨と骨を分析する解析法は、将来軟骨が薄くなった際の接触領域を予見する意味で有用となる可能性がある。加えて顆間隆起の外側偏位による脛骨顆間隆起の潜在的な接触領域が膝OAの予測因子となる可能性がある。<BR> 本研究の限界は小さなサンプルサイズ、軟骨を除外した骨モデル、横断研究であることなどが挙げられる。この研究の知見はあくまでも思春期の男女において確認されたものであり、これが膝OAの好発する50歳代に至るまでにどのように変化するのかは解明されていない。今後の研究ではこれらの限界を踏まえ、対象を拡げて膝アライメントの変化に伴う潜在的な接触領域を調査する必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 大腿骨と脛骨の最接近部は外側顆間隆起と脛骨内側プラトーの2点であった。このことは、将来関節軟骨が菲薄化することにより、大腿骨外顆が脛骨隆起外側に乗り上げる可能性を示唆している。今後、さらに対象者を広げ、脛骨外方偏位が膝関節の接触領域に及ぼす影響を詳細に調査し、膝OAの進行過程解明の一助としたい。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI2099-AbPI2099, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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