肢位の違いが握力に及ぼす影響についての検討

DOI
  • 長屋 秀吾
    いきいきリハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 成瀬 友貴
    いきいきリハビリテーション病院リハビリテーション部

書誌事項

タイトル別名
  • ハンデ率を用いた補正の試み

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抄録

【目的】握力は、簡便で安全に計測可能な評価項目の一つである。多くの身体機能・能力との相関が報告されており、握力により種々の能力を予想することも可能である。対象者の握力を比較検討する際、文部科学省による年齢別握力平均を用いて比較検討することが可能である。しかし、発表されている握力は立位での平均値であり、座位や臥位での握力と比較検討することの妥当性は低い。この問題は同一の対象者での効果判定においても同様のことがいえる。先行研究では肢位別にすべての握力が相違するといった結果や、一部は相違するといった結果が報告されている。しかし、対象が高齢者のみに絞られている研究や実験対象者が著しく少ない研究などの課題が生じている。そこで今回の研究では健常成人の立位、座位、臥位における握力の違いを改めて明らかにし、また、各肢位間の関係を明らかにすることにより座位、臥位の握力を立位の握力へ補正し、より正確なデータでの比較検討を可能にすることを目的とした。補正は有意差の検定が可能である点、親しみやすい用語である点、分かりやすい数値である点からハンデ率を用いて行った。当研究でのハンデ率は、立位値を基準として肢位の違いをハンデとみなし、各肢位での値を立位値で除しその平均を求めたもの、と定義した。<BR>【方法】対象は健常成人50名(男27名、女23名)平均年齢27.78±6.67歳(男27.7±6.78歳、女27.87±6.4歳)である。立位、座位、臥位1(肩関節屈曲0度)、臥位2(肩関節軽度屈曲位で握力計とベッド上10cmの高さで計測)の4肢位にて計測した。計測は右左の順で2回ずつ行い最大値を採用した。1日の計測は1肢位のみとした。計測の順序は、被験者自身の選択により行なった。立位での計測は基本的に文部科学省新体力テストに準じた方法で実施した。座位での計測は背もたれ・肘掛を用いない端座位で股・膝関節は屈曲90度、足関節背屈0度にて行なった。臥位はほぼ立位と同様であるが、臥位1では握力計をベッドに押しつけないことを注意した。4肢位計測後、壁立位(壁に踵、体幹、頭部を接触させた状態で計測)を実施した。統計は各肢位間の有意差に関してはフリードマン検定(間隔尺度に対する統計法は通常反復測定一元配置分散分析を用いるが、今回は有意差の判定を行うには対象者が少ないことからフリードマン検定を用いた)、分散分析はシェッフェ法、立位値と臥位値の関係についてはピアソン関率相関を用いた。有意水準は5%とした。ハンデ率は小数点以下四捨五入とした。<BR>【説明と同意】参加者は、病院職員及び学生である。全参加者に対して、本研究の目的、方法を紙面と口頭にて説明し同意を得た。<BR>【結果】立位値と座位値の間には有意差は認められなかった。臥位1値と臥位2値の間にも優位差は認められなかった。一方、立位値、座位値と臥位1値、臥位2値の間には有意差が認められた(P<0.01)。再計測を行った壁立位値に関しては、立位値と座位値のそれぞれの間に有意差が認められた(P<0.05)。一方、壁立位値と臥位1値、臥位2値の間にはそれぞれに有意差が認められなかった。立位値と臥位1値との間には強い相関がみられ(r=0.89)、ハンデ率は臥位1値が立位値に対して93%だった(t>1.95)。<BR>【考察】立位値、座位値間と臥位1値、臥位2値、壁立位値間の有意差がなく、また、立位値、座位値と臥位1値、臥位2値、壁立位値間に有意差が認められた。それぞれの共通点、相違点は下肢、体幹、頭部の位置関係が考えられる。臥位1、臥位2、壁立位は各部位がベッド、壁に接しており、固定された状態となっている。一方、立位、座位は体幹と頭部が固定されている。つまり、矢状面では体幹と頚部の前屈による肘関節の屈曲により、上腕二頭筋の代償が作用したことや、体幹の前屈により同じ屈筋群としての手指屈筋群が働きやすくなったこと、前額面と水平面では体幹の側屈と回旋により末梢の筋を促通させたこと、などが立位値、座位値と臥位1値、臥位2値、壁立位値間の握力に優位な差を生じさせた理由ではないかと考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】臨床において握力を計測し、時間的変化や他者平均値との比較を行う場合、同肢位での計測値が最も妥当性が高い。しかし、何らかの理由により同肢位での計測が困難な場合は、立位値と座位値間に関しては、それらを比較検討しても問題はないと考えられる。この結果は先行研究の健常高齢者に対する研究と類似しており、健常成人に対しても同じことがいえると考えられる。一方、立位値、座位値と臥位値間を比較検討することは妥当ではないと考えら、臥位値を立位値、座位値間と比較検討するには93%のハンデ率を考慮し補正する必要があると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI2102-AbPI2102, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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