不動期間の延長に伴うラットヒラメ筋の筋周膜ならびに筋内膜におけるタイプI・IIIコラーゲンの変化

DOI
  • 本田 祐一郎
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 理学・作業療法学講座
  • 近藤 康隆
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 理学・作業療法学講座 日本赤十字社長崎原爆病院リハビリテーション科
  • 横山 真吾
    特別医療法人 春回会井上病院リハビリテーション科 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 リハビリテーション科学講座 運動障害リハビリテーション学分野
  • 濵上 陽平
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 理学・作業療法学講座
  • 片岡 英樹
    社会医療法人 長崎記念病院リハビリテーション部 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 リハビリテーション科学講座 運動障害リハビリテーション学分野
  • 坂本 淳哉
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 理学・作業療法学講座
  • 中野 治郎
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 理学・作業療法学講座
  • 沖田 実
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 リハビリテーション科学講座 運動障害リハビリテーション学分野

抄録

【目的】<BR> 骨格筋は不動状態に曝されるとその伸張性が低下し,拘縮が惹起されるが,その病態には筋膜の変化が関与するとされている.筋膜は硬度が要求される組織で含有率が高いタイプIコラーゲンと伸張性や弾性が要求される組織で含有率が高いタイプIIIコラーゲンが主な構成タンパクであるが,先行研究ではこれらの動態が不動によって変化すると報告されている.しかし,不動の方法やその期間,検索した骨格筋が報告によって異なるため,一定の見解は示されていない.一方,タイプI・IIIコラーゲンの含有率は筋膜の種類によっても異なることが知られており,具体的には,筋線維を直接包む筋内膜はタイプIコラーゲンよりもタイプIIIコラーゲンの含有率が高くなっているが,筋束を包む筋周膜や骨格筋全体を包む筋上膜はその逆になっている.したがって,このような筋膜の構造特性を考えると,不動によるタイプI・IIIコラーゲンの動態変化も筋膜の種類で異なる可能性があるが,この点を検討した報告はない.そこで,本研究では不動期間の延長に伴うラットヒラメ筋の筋周膜ならびに筋内膜におけるタイプI・IIIコラーゲンの動態変化を蛍光免疫染色法を用いて検索した.<BR>【方法】<BR> 実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット50匹を用い,両側足関節を最大底屈位で1・2・4・8・12週間ギプスで不動化する不動群(各5匹,計25匹)と同期間,通常飼育する対照群(各5匹,計25匹)に分けた.各不動期間終了後は麻酔下で両側足関節の背屈可動域(ROM)を測定し,その後ヒラメ筋を採取した.そして,この筋試料から凍結横断切片を作製し,その一部はH&E染色とPicrosirius Red染色を施し,検鏡した.また,一部の切片は抗タイプI・IIIコラーゲン抗体ならびに蛍光標識を含んだ二次抗体を用いた蛍光免疫染色を施した.各試料の蛍光免疫染色像については筋周膜と筋内膜の解析に使用するため,各々につき画像内の一定範囲(150×150pixel)を50枚(計100枚)ずつ無作為に選択・保存した.そして,画像解析ソフト NIS-Elements(Nikon社製)を用い,以下の手順で筋周膜と筋内膜のタイプI・IIIコラーゲンの定量を行った.すなわち,一枚の解析用画像毎に筋周膜もしくは筋内膜を自動トリミングし,この部分に含まれる画素(pixel)毎の輝度(0~255)を自動計測した後,すべての輝度の累積を総発光量とし,それをトリミング部の面積で除した値をデータとした.統計処理として,各不動期間毎の群間比較には対応のないt検定を,群毎の不動期間の比較は一元配置分散分析適用後,Scheffeの方法を用いて判定した.なお,有意水準はすべて5%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 本実験は長崎大学動物実験指針に準じ,長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.<BR>【結果】<BR> 不動群のROMは,各不動期間とも対照群に比べ有意に低値で,不動期間の延長に伴い有意な低下を認めた.次に,H&E染色像をみると不動群は各不動期間とも筋線維萎縮を認めたが,筋線維内への細胞浸潤などは認められなかった.一方,Picrosirius Red染色像をみると不動群の筋周膜,筋内膜にはともに肥厚が認められた.画像解析の結果として,不動群の筋周膜ならびに筋内膜におけるタイプI・IIIコラーゲンは対照群のそれらに比べ有意に高値を示した.そして,不動期間による有意差は不動群の筋内膜におけるタイプIコラーゲンのみで認められ,それは不動4週まで不動期間の延長に伴い有意に増加した.<BR>【考察】<BR> ROMの結果から,不動群には拘縮が発生し,これは不動期間に準拠して進行するといえる.次に,筋周膜ならびに筋内膜のタイプI・IIIコラーゲンの結果をみると,いずれのタイプともすべての不動期間で増加しており,筋周膜と筋内膜を構成するタイプI・IIIコラーゲンは不動によって増生が促されることが示唆された.そして,これはPicrosirius Red染色像で確認された筋周膜,筋内膜の肥厚の一因と考えられ,拘縮の発生に何らかの関与があると推察される.一方,不動期間の影響については,筋内膜のタイプIコラーゲンのみが不動4週まで不動期間に準拠して増加が認められた.つまり,この変化のみが拘縮の進行と関連しており,その病態としても重要な所見と思われる.しかし,このような変化が起こる分子メカニズムは現段階では不明であり,今後の検討課題である.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究は,筋周膜,筋内膜といった局在におけるタイプI・IIIコラーゲンの動態が不動によって変化するか否かを検討した基礎研究であり,その成果として,筋内膜のタイプIコラーゲンの増加が拘縮の進行と関連することを提示できたことは,理学療法の治療対象である拘縮の病態解明の一助となる意義あるものと考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AdPF2016-AdPF2016, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550398336
  • NII論文ID
    130005016755
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.adpf2016.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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