歩行刺激と荷重刺激による廃用性筋萎縮抑制効果の比較

DOI
  • 宮田 卓也
    公立つるぎ病院診療技術部リハビリテーション室 金沢大学医薬保健研究域保健学系
  • 田中 正二
    金沢大学医薬保健研究域保健学系
  • 山崎 俊明
    金沢大学医薬保健研究域保健学系

抄録

【目的】廃用性筋萎縮に対して荷重による機械的刺激が抑制効果を示すことは多数報告されている.理学療法の臨床場面では離床後早期に荷重練習を実施し,ある程度立位保持が可能であれば歩行補助具を用いて積極的に歩行練習を実施する場面が多い.しかし早期からの歩行練習が廃用性萎縮筋に対してどのような効果を示すかについて着目した報告は荷重刺激ほど多くない.よって本研究では歩行刺激と荷重刺激が廃用性筋萎縮に与える効果を組織学的,遺伝子学的に検討した.<BR>【方法】7週齢のWistar系雄性ラットを用いた.ラットは7週齢及び2週間通常飼育するコントロール群(CON1,CON14)と実験群に無作為に分類した(各n=8).実験群は山崎らの方法を用いて7日間の後肢懸垂を実施した後,さらに1日あるいは7日間,1)後肢懸垂する群(HS8,HS14),2)毎日1時間トレッドミル歩行する群(EX8,EX14),3)毎日1時間荷重する群(WB8,WB14),4)通常飼育する群(RL8,RL14),に分類した.実験後,対象の体重を測定,その後麻酔下で心切開による放血致死により血液成分を極力取り除き両側ヒラメ筋を採取した.右側ヒラメ筋は筋湿重量を測定後,凍結横断切片を作成してヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った.染色像は光学顕微鏡にて観察,カメラで撮影し画像解析ソフトImageJを用いて各サンプル200線維の筋線維横断面積を測定した.また左側ヒラメ筋はグアニジン-セシウム超遠心法による総RNA抽出後,定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を行った.目的遺伝子は機械的刺激後に分泌され細胞増殖促進作用のあるMGFと筋特異的転写因子の一つであるMyoDとし,MGFは機械的刺激量の指標として,またMyoDは筋衛星細胞活性化の指標として用いた.なおこれらの定量結果はハウスキーピング遺伝子のGAPDHで除し半定量化し,CON群を1とした相対値で示した.統計学的分析にはスミノフ・グラブス検定後(有意水準は0.01),2群間の差の検定にはマンホイットニー検定,多重比較ではシェッフェとスチールの検定を用いた(有意水準は0.05).<BR>【説明と同意】本実験の実施は金沢大学動物実験委員会承認のもとに行った.<BR>【結果】筋湿重量では8日目でHS8(63.5±3.0mg)と比較してRL8(86.3±3.9mg)のみ,また14日目でHS14(48.4±3.1mg)と比較してWB14(67.3±4.7mg)とRL14(124±6.4mg)が有意に大きかった.筋横断面積は8日目ではHS8(1806±158μm2)と比較してEX8(2663±153μm2)のみ有意に大きく,14日目ではHS14(1432±81μm2)と比較してWB14(2100±229μm2),RL14(2850±187μm2)が有意に大きかった.HE染色像ではEX群で筋損傷像が多く見られる傾向にあった.MGF発現量は8日目でRL8(3.21±0.74)がHS8(0.25±0.06),WB8(0.46±0.15)と比べて有意に大きかったが,EX8(1.46±0.42)とは有意差はなかった. MyoD発現量は8日目のRL8(4.07±1.39)で他の群と比較して有意に大きかった. <BR>【考察】筋湿重量及び筋横断面積から荷重刺激は先行研究同様,廃用性筋萎縮を抑制することが示されが,歩行刺激は抑制程度が小さく有意差がなかった.しかし機械的刺激量は荷重刺激よりも歩行刺激の方が大きい傾向が示唆された.廃用性萎縮筋では荷重刺激により微細な筋損傷が生じ,効果のある運動許容範囲が狭いことが報告されている.今回用いた歩行運動は脆弱した廃用性萎縮筋に対して過負荷になった可能性が考えられ,廃用性筋萎縮惹起後,早期からの歩行刺激が萎縮抑制にあまり効果的ではない可能性が考えられた.このことを支持するように,歩行運動群では開始直後,筋の浮腫性変化を示していると考えられる筋横断面積の増大と,14日の時点で筋損傷像が比較的多く観察された.ただ MyoD発現量は筋損傷後に増大することが報告されているが,本実験の歩行運動群ではMyoD発現量を増大させるほどの変化ではなかった.<BR>【理学療法学研究としての意義】臨床場面では早期離床の重要性が周知されているが,それは必ずしも早期歩行開始と同義ではない.早期からの歩行練習は脆弱した筋に対し過負荷となり筋萎縮抑制に効果的ではない可能性が考えられ,荷重程度から開始し歩行へ段階的に進める段階的介入の有用性が本実験から示唆された.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AeOS2002-AeOS2002, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573556224
  • NII論文ID
    130005016761
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.aeos2002.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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