運動イメージの誤差は歩行能力と関係する

DOI
  • 北地 雄
    医療法人財団 健貢会 東京病院 リハビリテーション科
  • 佐藤 優史
    医療法人財団 健貢会 東京病院 リハビリテーション科
  • 原 辰成
    医療法人財団 健貢会 東京病院 リハビリテーション科
  • 清藤 恭貴
    医療法人財団 健貢会 東京病院 リハビリテーション科
  • 重國 宏次
    医療法人財団 健貢会 東京病院 リハビリテーション科
  • 古川 広明
    医療法人財団 健貢会 東京病院 リハビリテーション科
  • 原島 宏明
    医療法人財団 健貢会 東京病院 リハビリテーション科
  • 角田 亘
    東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座

抄録

【目的】運動イメージは運動の脳内表象と考えられており、運動をイメージした時の脳活動は実際の運動を行った時と近似することが報告されている。運動イメージ時の脳活動が、実際の運動遂行時と近似するということは、運動イメージは内部モデルによるfeed forward情報とも考えられ、これを測定することで対象者の運動戦略を知ることができると考えられる。この運動イメージを測定する方法に心的時間測定(mental chronometry)がある。この運動イメージである心的時間と実際の運動遂行時間の誤差は、パフォーマンスレベルが高くなるほど一致し、加齢や疾患により大きくなる事が報告されている。しかし、この誤差は差や比や率で現されており統一されていない。そこで今回、運動イメージである心的時間と実際の運動時間の誤差の差と比と率および歩行能力の関係を検討した。<BR><BR>【方法】対象は脳血管疾患により片麻痺を呈した11名(平均年齢63.5±10.2歳、男性8名、女性3名)であり、発症からの期間は88.5±47.3日であった。調査項目はTimed up and go test(3m)の至適速度条件(TUGcom)と最大速度条件(TUGmax)、10m歩行の至適速度条件(10mCWT)と最大速度条件(10mMWT)、さらにそれらの運動イメージとしてそれぞれの心的時間(心的TUG、心的10m)を測定。運動イメージである心的時間と実際の運動時間の誤差は、心的時間と実際時間の差(心的-実際)と比(心的÷実際)と誤差率([実際-心的]÷実際×100)を算出した。運動イメージの鮮明度は数値的評価スケールであるNumerical Rating Scaleにて評価した。その他の評価指標として麻痺側下肢荷重率、Barthel Index、Functional Balance Scale、麻痺側下肢Brunnstrom Stage、Tinnettiらの10項目のFalls Efficacy Scaleを調査した。TUGと10m歩行は実際の運動が記憶に残りイメージに与える影響を考慮し心的時間測定を先に行った。統計学的解析はまずShapiro-Wilk検定にて正規性を確認し、それぞれの調査項目間の関係をPearsonとSpearmanの相関係数を算出。運動イメージである心的時間と実際の運動時間の差を対応のあるt検定とWilcoxonの符号付順位検定にて比較し、心的時間と実際時間の差と比と誤差率を分散分析(one way ANOVAとFriedman検定)と多重比較法(Games-Howell)にて比較した。さらに運動イメージである心的時間と実際の運動時間の誤差が歩行能力にどのように影響するのか、歩行能力を表す指標として10mMWTを採用し、イメージ誤差との単回帰分析を実施し、影響が認められた場合にROC曲線から歩行自立のカットオフを算出した。解析にはPASW17.0を使用し有意水準5%とした。<BR><BR>【説明と同意】対象者には事前に研究の概要を口頭にて説明し、理解を得たうえで同意を得た。<BR><BR>【結果】TUGcomとTUGmaxには心的時間と実際時間に有意差が認められ、10mCWTと10mMWTには心的時間と実際時間に有意差が認められなかった。心的時間と実際時間の差と比と誤差率では、TUGでは差と比と誤差率すべての項目間に有意差があり、10m歩行では差と誤差率、比と誤差率に有意差が認められた。単回帰分析の結果運動イメージである心的時間と実際の運動時間との誤差を現す指標のなかで10mMWTに最も影響の強いものはTUGcomの心的時間と実際時間の差であり、(10mMWT=9.506+[-0.818]×TUGcom差)の回帰式(寄与率65.8%、調整済みR2乗=0.621)を得た。TUGcomの心的時間と実際時間の差と歩行自立のROC曲線から、歩行自立のカットオフは心的時間と実際時間の差が-4.79秒となり感度、特異度とも100%であった。<BR><BR>【考察】TUGには運動イメージと実際の運動時間に差が認められ、10m歩行では差が認められなく、これは課題の特異性や難易度が影響していると考えられる。また、運動イメージと実際の運動との誤差は、差と比で有意差があるもののより近い傾向があり、率はそれらと違うものを現している可能性がある。しかし、歩行能力指標とした10mMWTとの単回帰分析からは運動イメージである心的時間と実際の運動時間との誤差はTUG、10m歩行時間ともに心的時間-実際時間からの差がもっとも寄与率が高く、イメージの時間誤差は単純に差で現して良いと考えられた。更にこの結果から、運動イメージと実際の誤差が大きいと歩行能力は低く、誤差が小さいと歩行能力が高いと考えられる。そのため歩行自立のカットオフも予測精度の高いものとなったと考えられる。しかし今回は症例数が少なく、今後症例数を増やし病巣も含め再検討する必要もあると考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】運動イメージである心的時間と実際時間の誤差を現すには、今回の結果から差を利用すればよく、さらにイメージと実際の誤差は歩行能力とも関係し、歩行自立も判断できる結果となった。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), BeOS3015-BeOS3015, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572672384
  • NII論文ID
    130005016977
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.beos3015.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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