新生仔一側大脳皮質切除術モデル動物における非傷害側大脳感覚運動皮質に存在する皮質脊髄ニューロンの質的・組織形態学的検討

DOI
  • 吉川 輝
    横浜市立大学大学院医学研究科神経解剖学教室 山王リハビリ訪問看護ステーション
  • 跡部 好敏
    横浜市立大学大学院医学研究科神経解剖学教室
  • 武田 昭仁
    横浜市立大学大学院医学研究科神経解剖学教室
  • 船越 健悟
    横浜市立大学大学院医学研究科神経解剖学教室

抄録

【目的】<BR>本研究は,新生仔期脳傷害からの運動発達メカニズムを調べるため,機能的大脳皮質切除術モデルラットへ2種類の逆行性トレーサーを使用する事で,非傷害側感覚運動皮質に存在する皮質脊髄ニューロンの質的・組織形態学的変化とニューロン新生について同週齢の正常発達群と比較検討する事である.<BR>【方法】<BR>本研究では,Wistar系ラットを吸引除去群18匹,正常群12匹用いた.<BR>機能的大脳皮質切除術モデル作製としては,生後7日のラットの左大脳皮質に対して吸引除去術を施行した.<BR>術後5-7日にかけて5-bromo-2-deoxyuridine(以下BrdU)100μg/gを1回/日,腹腔内注射した.<BR>吸引除去術後2週,3週,4週,5週に頚椎5-6の椎弓切除術を行い,逆行性トレーサーとして右頚髄にFITC conjugated cholera toxin subunit B(以下CTB),左頚髄にFastBlue(以下FB)をそれぞれ1μlずつ注入した.<BR>注入後,4日の生存期間を経て灌流固定を実施し,即時に脳脊髄を剖出し後固定とcryoprotection処置をした.その後,40μmの凍結冠状切片を作製し,蛍光観察用試料としてBrdUとCTBに対する免疫染色,明視野試料としてNisslを含むKluver-Barrera染色を実施.<BR>作製した試料は蛍光落射顕微鏡にて観察,細胞のカウントを行い記録した.<BR>結果の表記は,それぞれの週を吸引除去群,正常群の順で平均値±標準誤差で示す.<BR>統計学的手法には,Mann-Whitney U test,Kruskal-Wallis H testを用い,それぞれ有意水準を5%とした.<BR>【説明と同意】<BR>本研究は横浜市立大学医学部動物実験倫理委員会の承認を得て実施した.<BR>【結果】<BR>右大脳感覚運動皮質におけるCTB標識細胞数は,2週(967.4±199.1,232.0±95.3),3週(1002.4±132.2,62.3±9.4),4週(1146.8±533.0,84.0±36.4),5週(895.8±113.6,50.3±8.7)で,全週において有意差を示した.CTBとFBによる二重標識細胞は,2週(21.6±11.3,1.7±0.9),3週(25.6±11.6,1.3±1.3),4週(28.5±10.2,0.3±0.3),5週(48.0±23.9,1.7±1.2)で,4-5週で有意差が認められた.<BR>各群におけるそれぞれの項目に対する経時的変化では有意差は認められなかったが,吸引除去群のCTBとFBによる二重標識ニューロン数は増加傾向を示した.<BR>BrdUとCTBの二重標識細胞は観察されなかったが, BrdU陽性標識の存在が散在性に観察された.<BR>【考察】<BR>本研究において,新生仔期脳傷害後に非傷害側感覚運動皮質に存在する皮質脊髄ニューロン数が全週齢にて有意差を認めた.さらに,CTBで標識されたニューロンの中にはFBにおいても標識されたものの存在も明らかになった.この現象は,一つの皮質脊髄ニューロンが同脊髄レベルにおいて両側性に軸索を投射しているとみなす事ができる.そこで,正常発達においても両側性投射の有無を確認すべく観察した.その結果,CTBとFBの両方で標識されたニューロンが観察されたが,その数は極わずかであり,4-5週の時点で有意差を示した. <BR>しかし,そのCTBとFBの二重標識されたニューロンは,同部位におけるCTBのみで標識されたニューロンの数%を占めるのみであった.最近,Ohira(2010)やVessal(2010)は大脳皮質においてもニューロン新生を確認したと報告しており,CTBのみで標識されたニューロンの実態を調べるため,BrdUによる検討を実施した.しかし,本実験では皮質脊髄ニューロンの新生は確認できなかった.しかし,CTB標識ニューロンの周囲にDrdU陽性標識が確認されたため,今後の検討の余地を残す.<BR>以上より,発達期脳傷害からの運動発達メカニズムとして,皮質脊髄ニューロンが発達期に本来であれば淘汰されるべきものが残存している事,刈り込みによって消失されるべき両側性投射の軸索が残存している事が役割を果たしていると結論づける.さらに,非傷害側から下行性に投射する軸索からの側副枝発芽による可能性も強く示唆される. Umeda(2010)は,同モデルを使用した電気生理学的実験より,非傷害側半球からの錐体線維が同側脊髄前角ニューロンへ電気刺激が伝達している事を示した.この報告からも発達期脳傷害後の運動発達機能の獲得には,本研究で得られた現象が強く貢献していると示唆される.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>小児リハビリの世界では,早期発見・早期療育が重要と認識されている.しかし,その科学的根拠はまだ十分とは言えない.そのため,本研究のような基礎研究からも,その科学的根拠を高め,より効果的な小児リハビリテーションの確立を目指すべく,継続的に研究を実施していく必要がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), BeOS3039-BeOS3039, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549422848
  • NII論文ID
    130005017001
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.beos3039.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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