棘下筋の効果的ストレッチング肢位の検討

DOI
  • 大塚 直輝
    京都大学医学部人間健康学科理学療法学専攻
  • 中村 雅俊
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 松村 葵
    京都大学医学部人間健康学科理学療法学専攻
  • 市橋 則明
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻

抄録

【目的】<BR>肩関節は,投球肩障害やインピンジメント症候群など,多くの障害が発生する部位として知られている。棘下筋は,肩関節の動的安定性・静的安定性に関与していると言われ,この筋機能を適切に維持することが,肩関節の障害予防に繋がると考えられる。筋機能を維持する方法の1つとしてストレッチングが挙げられ,外旋筋である棘下筋のストレッチング肢位としては肩関節を内旋することで一致している。しかし,棘下筋を最も伸張するために肩関節をどの肢位で内旋する方法が効果的であるか検討した報告は見当たらない。<BR>効果的なストレッチングの方法を明確にできない理由の一つとして、筋の伸張性を評価する良い方法が無いことがあげられる。我々の先行研究において筋は伸張するにつれて硬度を増すことが明らかになったため、ストレッチング中の棘下筋の筋硬度を測定することで,最適なストレッチング肢位を明確にできると考えた。<BR>本研究の目的は,筋硬度計を用いて,棘下筋の最も効果的なストレッチング肢位を明らかにすることである。<BR>【方法】<BR>対象は神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常男性15名(平均年齢21.8±1.2歳)とした。対象筋は利き手側の棘下筋とした。ストレッチング肢位は,(1)肩関節 0°屈曲,肘関節90°屈曲(第1肢位)からの内旋,(2)肩関節90°外転,肘関節90°屈曲(第2肢位)からの内旋,(3)肩関節90°屈曲・内旋,肘関節90°屈曲(第3肢位)からの内旋,(4)肩関節伸展・内旋の4試行とし,最終可動域まで他動的関節運動を行った。(1),(2),(3)の内旋可動域はそれぞれ81.7±2.44°,65.3±11.3°,26.7±11.3°であった。(4)は腹臥位で肘関節90屈曲し,橈骨茎状突起を背面正中に置いた位置からの内旋角度を測定し,11.0±6.04°であった。各試行中に肩甲骨は固定せず,内旋最終可動域(軟部組織性の最終域感を感じた時点)で徒手的に固定し,このときの筋硬度を測定した。筋硬度は,筋硬度計(NTI製マイオトノメータ)を使用し,圧力2kgで5回測定し,その平均値を算出した。棘下筋は上部線維と下部線維に分け,筋硬度の測定位置は,肩甲棘中央から2横指下を棘下筋上部,肩甲棘中央から4横指下を棘下筋下部とした。なお,筋硬度測定時に棘下筋の防御性収縮がないことを確認するため,棘下筋の表面筋電図(Noraxon社製テレマイオ2400)を測定しながら行った。<BR>この研究では,上記の4試行の他に安静時(解剖学的肢位)の筋硬度を測定し,各試行の安静時からの変化率を算出した。変化率が大きいほど筋が伸張されていることを示す。<BR> 統計学的処理では,Wilcoxon検定を用いて変化率の比較し,Holm補正した。有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象者には研究の内容を説明し,研究に参加することの同意を得た。<BR>【結果】<BR>全ての試行において筋電図学的活動は認められなかった。まず棘下筋上部線維において,筋硬度変化率は,(1)第1肢位・内旋,(2)第2肢位・内旋,(3)第3肢位・内旋に比べて(4)肩関節伸展・内旋が有意に増加した。また,(1)第1肢位・内旋,(2)第2肢位・内旋は(3)第3肢位・内旋に比べて有意に増加した。<BR>次に棘下筋下部線維において,筋硬度変化率は(1)第1肢位・内旋,(2)第2肢位・内旋,(3)第3肢位・内旋に比べて(4)肩関節伸展・内旋が有意に増加した。<BR>その他の試行間に有意差はなかった。<BR>【考察】<BR>本研究では,棘下筋上下部線維ともに(4)肩関節伸展・内旋により最も伸張された。先行研究により上部線維は肩関節外旋作用に加えて屈曲・外転作用を有しており,その反対方向である伸展位での内旋で最も伸張することが出来たと考えられる。また下部線維は伸展・外転作用を有しているが,解剖標本を用いた検討では肩甲骨面挙上位での内旋と伸展位での内旋で下部線維が伸張されることが報告されている。本研究において (2)第2肢位・内旋や(3)第3肢位・内旋で下部線維が伸張されなかった原因として,生体においては下部線維よりも関節包や靱帯などが伸張された結果,下部線維が伸張されなかった可能性が考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>棘下筋上下部線維をストレッチングするためには,肩関節伸展位で内旋することが最も効果的であると示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI1278-CbPI1278, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571855744
  • NII論文ID
    130005017114
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi1278.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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