投球動作における3次元動作解析と肩甲帯周囲の筋活動特性

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  • wavelet変換による動的周波数解析

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抄録

【目的】<BR> 近年,投球障害肩の原因についての様々な研究,報告がなされており,一定の成果を挙げている.しかし,従来の筋力評価は腱板の筋活動に関する報告が多く,肩甲帯周囲の筋活動に関しての報告は少ない.また,wavelet変換(以下,WT)を用いた表面筋電図(以下,EMG)周波数解析により投球動作時の筋活動を報告したものはない.本研究の目的は,投球動作時の肩関節,胸椎,骨盤の各角度と身体重心移動距離を3次元動作解析装置にて測定し,WTを用いたEMG周波数解析による肩甲帯周囲筋の動的EMG周波数特性との関連性について検討することである.<BR>【方法】<BR> 対象は硬式高校野球選手の投手8名とした.対象の条件として,測定前1ヶ月以内に投球動作による肩関節痛が生じた経験があり,かつ測定時には肩関節痛が生じなかった選手とした.疼痛発生部位は肩関節前方部,疼痛発生位相はacceleration期であった.この8名を対象群とした.コントロール群として,投球時に肩関節痛のない硬式高校野球選手の投手10名とした.投球動作解析は3次元動作分析装置Vicon Nexus(Vicon Motion Systems社製)と赤外線カメラMX-3(Vicon Motion Systems社製)7台を用いた.サンプリング周波数は100Hzとした.筋活動の測定には表面筋電計テレマイオ2400T(Noraxon社製)を用い,サンプリング周波数は1.5kHzとした.検討項目は,3次元動作解析は肩関節(外転,水平伸展,外旋)角度,胸椎(屈曲,伸展)角度,骨盤(前傾,後傾)角度と身体重心移動距離とした.EMG解析は僧帽筋上部線維,僧帽筋中部線維,僧帽筋下部線維,前鋸筋,三角筋後部線維について連続WTを用いた時間周波数解析を行った.投球動作各位相時の平均周波数を算出し,各位相間での平均周波数の最小値と最大値を求め,その差分(以下,MPFR)を算出した.また,得られたEMG周波数パワースペクトルを12.5~60Hz,61~120Hz,121~200Hzの3つの帯域に分類し,各周波数パワースペクトル帯域の累積パワー(平均値)を算出した.統計処理はMann-Whitney’s U testを行い,有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 研究の内容については宮崎大学医学部倫理委員会の承認を得た.対象者には研究の目的と内容を説明し,文書にて同意を得て行った.<BR>【結果】<BR> 対象群はコントロール群と比し,肩関節外旋角度はacceleration期のボールリリース時において有意に低値を示した.肩関節最大外旋角度(以下,MER)は有意差を認めなかった.胸椎伸展角度はacceleration期,骨盤前傾角度はcocking期,acceleration期においてそれぞれ有意に低値を示した.身体重心移動距離はcocking期において前方移動距離,acceleration期においてステップ脚方向移動距離で有意に低値を示した.MPFRはcocking期の僧帽筋上部線維において有意に高値を示し, acceleration期の僧帽筋下部線維において有意に低値を示した.累積パワーは各位相において有意差を認めなかった.<BR>【考察】<BR> MERに関わる要因として,肩関節外旋運動は肩甲上腕関節外旋運動,肩甲骨後傾運動,胸椎伸展運動などの連動により遂行される.今回,対象群はコントロール群と比し,MERは有意差を認めず,胸椎伸展角度,骨盤前傾角度,身体重心移動距離において有意に低値を示した.このことから肩甲上腕関節外旋角度が増加していると推測され,負荷が増大したと考えられた.また,ボールリリース時の肩関節外旋角度が低下していることから,重心後方荷重傾向により体幹回旋からの連動が減少し,肩関節水平内転運動で肩関節外旋運動を誘導したと考えられた.肩甲帯周囲の筋活動特性について,対象群はコントロール群と比し,MPFRがcocking期の僧帽筋上部線維において有意に高値を示し, acceleration期の僧帽筋下部線維において有意に低値を示した.このことから,胸椎伸展角度,骨盤前傾角度の低下による僧帽筋上部線維,下部線維のインバランスの影響が考えられ,僧帽筋下部線維において積極的なtype2筋線維の筋活動が引き起こされず, cocking期からacceleration期の肩関節外転時に必要な肩甲骨内転,上方回旋,後傾作用が低下したと推察された.これにより,代償的に僧帽筋上部線維におけるtype2筋線維の筋活動が優位になり,cocking期において肩甲骨挙上作用が増加したと推察された.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 投球障害肩の予防,改善には,投球動作の改善と身体機能の向上が必要とされる.本研究の結果より,投球障害肩のリハビリテーションでは,肩甲骨を含めた胸郭,上部体幹の柔軟性と肩甲帯周囲の筋活動バランスの改善が必要であると考えられた.なお本研究は,平成21年度宮崎県理学療法士会研究助成事業の採択を受けて実施したものである.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CcOF2064-CcOF2064, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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