発生機序の異なる腸脛靱帯炎に対するアスレティックリハビリテーション

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  • ハムストリングス機能不全に着目して

抄録

【目的】腸脛靭帯炎は、腸脛靭帯(以下ITT)の緊張度・硬さ、膝内反・過回外足等のマルアライメント、靴や路面の変化、オーバーユーズ、不良なランニングフォーム等多くの要因がある。ITT・大腿筋膜張筋(以下TFL)は膝関節外側の静的・動的安定機構であり、ランニングなどの走動作で影響をうけやすい。今回、ハムストリングス機能不全の影響により、発生機序の異なるサッカー選手の2症例を経験したので報告する。<BR><BR>【方法】<症例A>20代男性、サッカー歴14年。<診断名>右腸脛靭帯炎。 <現病歴>22年1月初旬、ランニング中右殿部(股関節外旋筋群~坐骨結節周囲)に違和感・脱力感出現後に腸脛靭帯炎発生。違和感・脱力感は21年10月から全体練習後にインサイドキック(以下IK)のパス練習の開始後、11月頃から自覚していた。徐々にバックスイング(以下BS)で力がうまく入らず、フォワードスイングはBSの反動で行う状態でシーズンを終了していた。<既往歴>平成20年、左大腿四頭筋炎。<初期評価:22年1月18日>1)疼痛:(1)ITT遠位部圧痛(±)、(2)スクワッティングテスト(以下ST)全方向疼痛(+)、(3)動作時痛:ランニング中右殿部の脱力感後に疼痛(+)。2)アライメント:膝O脚3FB。3)タイトネス・筋緊張:(1)オーバー・テスト(-)、(2)右外側ハムストリングス過緊張。4)筋機能評価:(1)MMT問題(-)、(2)等速性筋力問題(-)、(3)片脚ブリッジ動作を外側ハムストリングス優位のtoe outで行うと右下肢に著明な脱力感・筋力低下(+)。5)ランニングフォーム:トレッドミルで、時速16km/hで側・後方よりビデオカメラで分析した。ダイナミックアライメント(以下DA)は特に問題はなかった。<症例B>20代男性、サッカー歴15年。<診断名>右腸脛靭帯炎。<現病歴>22年1月初旬、ランニング中疼痛出現。<既往歴>20年11月、シュートブロックで右内側ハムストリングス不全損傷(2度)。<初期評価:22年1月23日>1)疼痛:(1)ITT遠位部圧痛(+)、(2)STでtoe in testで疼痛(+)、(3)動作時痛:右回りの歩行、ランニングで(+)。2)アライメント:(1)膝O脚4FB、(2)軽度回内足、3)タイトネス・筋緊張:(1)オーバー・テスト(-)、(2)外側ハムストリングス、外側広筋周囲過緊張。4)筋機能評価:(1)MMT問題(-)、(2)等速性筋力問題(-)。5)ランニングフォーム:症例Aと同様に分析した。DAは右フォワードスイングで右足部が明らかにtoe outで、外側ハムストリング優位の状態であり、フットストライク(以下FS)で右足部への過回外ストレスが予測された。その後11月には右足部toe outは減少していた。<BR><BR>【説明と同意】本調査および発表において、ヘルシンキ宣言に則りチーム・選手に十分に説明し同意を得た。<BR><BR>【結果】症例Aは殿筋群と外側ハムストリングスの協調したtoe outでのブリッジex等を中心に行い、約4週で脱力感・痛みは消失し競技復帰した。症例Bは殿筋群筋力ex、関節角度や筋収縮を考慮した内側ハムストリングス筋力exを中心に行い、補助具としてインソールに外側アーチの挿入を行い約7週で競技復帰した。<BR><BR>【考察】走動作の筋活動は、大殿筋とハムストリングスはフットディセント(以下FD)で股関節屈曲、膝関節の急速な伸展を調整する遠心性収縮から、サポート期初期には股関節伸展の求心性収縮が起こる。大殿筋とITTの共同作用として、1)大殿筋がITTに付着することによる膝関節固定の作用。2)TFLを緊張させ膝伸展時にはITTを介して下腿を外旋する作用があり、膝関節動的安定機構として重要である。外側ハムストリングスの大腿二頭筋長頭は股関節伸展と外旋作用がある。症例AはIK練習量増加で、股関節伸展・外旋の脱力感・筋力低下が生じた結果、サポート期初期の股関節伸展・外旋筋力が低下し、サポート期の膝外側動的機構であるITTの負荷が増大し腸脛靭帯炎が発生したが、外側ハムストリングスの筋機能改善により競技復帰できた。症例Bは右フォワードスイングでのtoe outで、FS時に右足部過回外接地からミッドサポート期での下腿内旋により腸脛靭帯炎が発生した。約7週間でDAに変化はなかったが、殿筋群筋力exや、内側ハムストリングス筋力exにてFS直前のFDでの遠心性収縮筋力向上等により、膝関節の急速な伸展をブレーキとして防ぐことでFSでのストレスを軽減でき競技復帰できた。11月には右足部toe outは減少している。2症例共に再発はしていない。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法士の職能である機能評価、動作分析が重要であることを本報告は提示している。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CcOF2071-CcOF2071, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680547936768
  • NII論文ID
    130005017364
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.ccof2071.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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