心臓血管外科術後の心房細動に関連する因子の検討

DOI
  • 外山 洋平
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーションセンター
  • 花房 祐輔
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーションセンター
  • 大塚 由華利
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーションセンター
  • 飯塚 有希
    埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーションセンター
  • 内田 龍制
    埼玉医科大学国際医療センター 心臓リハビリテーション科
  • 牧田 茂
    埼玉医科大学国際医療センター 心臓リハビリテーション科

抄録

【目的】近年,心臓血管外科術後の理学療法(PT)介入の早期化が進んでおり,手術の低侵襲化に伴い早期退院が可能となった.術後の合併症として,心房細動(AF)は最も頻回に認められ,発症率は冠動脈バイパス術で11~40%,弁膜症術後は60%と報告されている.また,術後の不整脈は70%が術後4日以内に起こるとされており,PT介入中にAFを発症する場合も少なくない.これまでに,AF発症の原因のひとつとして炎症反応の関連が報告されているが,本邦ではAFと炎症反応の関連を検討した報告は少ない.そこで本研究では,心臓血管外科術後のAF発症に関連する因子を検討することを目的とした.<BR>【対象】当院心臓血管外科において2009年12月から2010年9月までに冠動脈バイパス術及び弁膜症手術を施行され,PTを実施した症例98例(男性69名,女性29例,年齢68.3±9.3歳)を対象とした.手術の内訳は,冠動脈バイパス術が59例,弁膜症手術が39例(大動脈弁:30例,僧帽弁:9例)であった.尚,同時手術例,術前からのAF例,術後にAF以外の不整脈を発症しPTの進行に影響を及ぼした症例は今回の対象から除外した.<BR>【方法】対象の年齢,術式,術後AF発症の有無,初回AF発症日,術前・術後1日目・AF発症時における血液・生化学検査所見(血清尿素窒素(BUN),C反応性蛋白(CRP),血清ナトリウム(Na),血清カリウム(K)),術後のCRP最大値(peak CRP)とその測定日,術前・術後の心エコー所見(左房径(LAD),左室駆出率(LVEF)),術後合併症(整形外科的疾患を除く)の有無とその内容をカルテ記載から後方視的に調査した.統計学的分析は有意水準を5%未満とした.<BR>【説明と同意】本研究は,対象者に事前にデータの使用,個人情報の保護について説明し,同意を得た上で行った.<BR>【結果】AFの発症は98例中44例(44.9%)に認め,初回AF発症日は術後4.8±3.6日であった.AF発症例とAF非発症例の間では術後1日目のK,術後合併症の有無に有意差を認めた.また,AF発症例においては術後1日目とAF発症時のCRP・BUN・Naで有意差を認めた.AF発症例の術後合併症の内容はショック(IABP使用),心不全,腎不全,虚血性心疾患,脳血管障害,慢性閉塞性肺疾患などであった. <BR>【考察】心臓血管外科術後患者は,術中の補液や人工心肺の使用などにより水分過多となり,術後,積極的に利尿が図られるため,水分・栄養摂取が不十分な場合,脱水や電解質バランスの異常が出現し易い状態となる.先行研究では,開心術後には一過性にAFが生じやすく,術後1週間以内,特に2~3日後に最も多くみられ,AFの発症はCRPの上昇と一致すると報告されており,本研究の結果と概ね一致していた.本研究ではCRP,BUN,Na をそれぞれ炎症,脱水,電解質バランスの指標として挙げ,AF発症例とAF非発症例の各指標の差について検討した.その結果,術後のAF発症例ではAF発症時に炎症値の上昇と脱水,電解質バランスの異常を認めており,術後1日目のKから,AF症例では術後から電解質バランスの異常が存在していた.AF非発症例においても術後に炎症値の上昇を認めていた.よって本研究でも,術後のAF発症には従来までに報告されている炎症が関与していたと考えられたが,AF発症例では炎症値の上昇に加え,術後の脱水や電解質バランスの異常を認め,これらもAF発症に関与した可能性が示唆された.また,AF発症例とAF非発症例の間では合併症の有無に差を認め,IABPの使用や心不全,腎不全,慢性閉塞性肺疾患など,これまでの報告と一致するものも認めたが,合併症の内容は多岐に渡っており一定の見解は得られなかった.以上のことから,心臓血管外科術後早期からPT介入を行う際には,術後の炎症値の推移に加え,脱水の有無や電解質バランスの推移を把握することが,PT介入にあたり術後管理として重要な点であると考えられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】心臓血管外科手術の適応は拡大しており,今後,患者の高齢化や術前からの合併症を伴った患者の増加が予想される.それに伴い,術後AFを発症する患者数も増加する可能性が考えられるが,本研究は心臓血管外科術後患者に対するPT介入の際の一助となると考えられる.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), DbPI1361-DbPI1361, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548197888
  • NII論文ID
    130005017453
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.dbpi1361.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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