訪問リハビリテーションにおけるプログラム提供時間の検討

DOI
  • 渡邉 和裕
    さがみリハビリテーション病院 リハビリテーション科
  • 市川 勝
    さがみリハビリテーション病院 リハビリテーション科
  • 佐藤 隼
    さがみリハビリテーション病院 リハビリテーション科
  • 池山 順子
    さがみリハビリテーション病院 リハビリテーション科
  • 吉野 靖
    さがみリハビリテーション病院 内科

書誌事項

タイトル別名
  • 豊かな在宅生活を支えるために

抄録

【目的】<BR> 当院は2005年に訪問リハ部門を開設したが,当初より一人の利用者に対し複数のセラピストが交替で訪問している。このような状況では,利用者個々のニーズに対する柔軟な対応は困難であるため,セラピスト間での情報共有が不可欠であるが,情報共有の程度に関する文献は見当たらない。また,ケアプラン作成に関して単に利用者のニーズに対処するだけでなく,ニーズ発生の原因に切り込むケアプランが必要であるとの指摘(福富 2003)もあり,セラピストの専門性も求められている。そこで,当院訪問リハにおける情報共有について,訪問リハプログラム(以下,プログラム)提供時間を指標として調査を行ったので,若干の考察を加え報告する。<BR>【方法】<BR> 対象は,2010年10月25日~11月6日の期間に当院訪問リハを利用した66名(男性37名,女性29名,平均74.8歳,要支援1:1名,同2:2名,要介護1:7名,同2:16名,同3:10名,同4:18名,同5:12名),延べ利用回数203件とし,診療録よりケアプランや基本情報を後方視的に調査した。また,訪問リハに従事するセラピスト9名(PT6名,OT3名)を対象に,矢野ら(2004)の報告を参考に抽出した33項目のプログラムの提供時間についてアンケート調査を実施した。統計処理時は危険率5%に設定し,以下の処理を行った。(1)ケアプランとプログラムの一致率:ケアプランに記載されている訪問リハに対する内容をICFの構成要素に基づき分類した。また,アンケート結果も同様に分類したうえで,全プログラム提供時間に占める各プログラムの割合を算出した。さらに,全利用者におけるケアプラン最終更新日からの日数を求めた。(2)プログラム提供時間の職種差:セラピストをPT群・OT群に分け,プログラムごとに対応のないt検定を行った。(3)要介護度別プログラム提供時間:利用者を要介護度ごとに群分けし,プログラム提供時間をICF分類した項目ごとに1要因の分散分析およびtukey-kramerの多重比較検定を行った。また,ICF分類された全プログラム提供時間の割合を求めた。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院倫理委員会の承認を得たうえで実施した。また,個人情報の管理には十分に配慮した。<BR>【結果】<BR> (1)ケアプランとプログラム内容が一致していた割合は,20%未満:9.2%,20%~40%:29.2%,60~80%:24.6%,80%以上:16.9%で,平均50.7%であった。ケアプラン最終更新日からの平均日数は235.6日であったが,モニタリングは適宜行われていた。(2)職種間で提供時間に有意差が認められたプログラムについて,起居動作はPTで多く(p<0.01),屋外歩行はOTで多かった(p<0.05)。(3)介護度別に有意差を認めたICF分類は,「心身機能・構造」(要介護3 vs 5),「参加」(要介護3 vs 4, 5, 要支援2 vs 要介護3, 4, 5)であった。全プログラム提供時間に占める割合は,「健康状態」9.7%,「心身機能・構造」61.2%,「活動」18.2%,「参加」8.6%,「環境因子」0.2%,「個人因子」1.2%であった。<BR>【考察】<BR> モニタリングが行われているにも関わらず,ケアプランとプログラム内容の一致は半数程度であったことから,チームによるモニタリング自体が不十分であった可能性が示唆された。福富(2003)は訪問系サービスにおいて職種間連携を実現するためにはケアマネジャー側の努力が必要であると述べているが,本研究の結果よりセラピストが生活機能という観点から専門的な情報を発信することで,ケアプランとプログラムの整合性を高めることができるものと考えられた。<BR>また,PT・OT間のプログラム提供時間の差がほとんどみられなかった点について,中島ら(2010)は質の高い訪問リハを提供するには専門能力を活かす協業が必要であり,ニーズに対し担当職種を変更することも重要であると述べている。しかしながら,量的に未だ充足していない状況において,そのような対応は困難であることが多い。むしろ,現状では訪問リハに従事するセラピスト間で密に情報共有を行うことが現実的であると考えられた。<BR>全プログラム提供時間の中で「参加」に関するプログラムの占める割合が小さかった。この点に関して,「参加」の観点から種目表を設定する必要があるとの指摘(吉田 2007)もあることから,プログラム立案の際にはその人の生活や人生をどう豊かに送ってもらうか、という視点を持つべきであると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 訪問リハが量的に充実しつつある昨今,情報共有の観点ではセラピスト間,およびケアマネジャーとの協業が不十分であること,またセラピストのプログラム立案において対象者の「参加」の視点が不足している現状を明らかにした点で,今後の訪問リハの質的向上の端緒となりうる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EbPI1393-EbPI1393, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571455360
  • NII論文ID
    130005017607
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.ebpi1393.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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