重症心身障害者及び脳性麻痺者の在宅生活における福祉用具の使用状況

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抄録

【目的】在宅生活を送る重症心身障害者(以下,重症者)及び脳性麻痺者(以下,CP者)は増加している.しかし,CP者の身体機能低下は早期に起こることが知られており,多くの場合主たる介護者である親の加齢に伴う体力低下のため,本人の身体機能維持と介護負担軽減が大きな課題となっている.介護負担軽減のためには,適切な福祉用具の使用が有効と考えられるが,徐々に成長するわが子を自宅で介護してきた親にとって福祉用具の導入を決断しにくいことに加え,補助金や給付金等の福祉制度の不足による経済的負担もあり,福祉用具の使用頻度が少ないことが予想される.そこで今回,重症者とCP者の身体機能レベルと介護度,福祉用具の使用状況を調査し,より良い住居環境整備のための効果的な介入方法を検討することを本研究の目的とした.<BR>【方法】首都圏のベッドタウンA市在住の重症者とCP者(以下,被介護者)の主たる介護者である母親10名を対象に半構造化面接を行った.面接はICレコーダーで録音を行い,活字化して記録した.面接内容は,基本情報(被介護者の年齢,疾患名,体重,介護者の年齢と健康状態), ADLの介護負担,これまで及び現在利用している福祉用具,福祉用具の使用に関する考えであった.また,担当理学療法士より身体機能レベル(GMFCS),ADL自立度(FIM)に関する情報を得た.統計学的処理には,SPSS ver.17.0を用いた.「福祉用具の使用に関する考え」について語られた内容を逐語録として文字データに記録後,KJ法を参考に分析した.<BR>【説明と同意】対象者には調査目的と内容について書面と口頭で説明を行ない,書面にて同意を得た.<BR>【結果】被介護者の年齢は21歳から33歳の平均25.4±3.7歳(男性6名,女性4名),GMFCSはレベル5が4名,4が4名,3が2名,疾患名は脳性麻痺8名(痙直型四肢麻痺6名,痙直型両麻痺2名),その他2名であった. FIM総合得点は,18点から110点までの平均45.2点であった.介護負担が大きいADLは,4名が「入浴」,3名が「移乗」と回答した.現在使用している福祉用具は,1項目から7項目までの平均3.9項目であり,車椅子,福祉車両,座位保持装置,装具等の13品目が挙げられた.GMFCSごとの使用福祉用具数の平均は,レベル5が4.75品目,4が3.75品目,3が2.5品目であった.FIM総合得点と福祉用具使用品目数の間には,中等度の負の相関がみられた(r=-0.61).介護者の腰痛及び頚肩腕痛の有無による福祉用具使用個数についてt検定を行ったところ,腰痛及び頚肩腕痛の有る群で使用個数が多い傾向が見られた(p<0.1).過去に使用しており現在使用していない福祉用具は,座位保持装置,歩行器,装具等の10品目が挙げられた.福祉用具購入時の相談者は,過去に使用していた物に関しては72%が理学療法士及び作業療法士(以下,PT/OT)に相談していた一方で,現在使用している物は,相談者なしが最も多く35%を占めていた.福祉用具の使用に関する考えは,使用に積極的な内容は1)介護負担軽減・事故予防,2)使用による効果の実感に分類され,消極的な内容は1)生活スタイルの維持,2)経済的理由,3)環境上の制限,4)被介護者の身体機能および体調,5)外見上の問題,6)情報不足に分類された.<BR>【考察】福祉用具の使用個数に関して,ADL自立度が低い被介護者を介護する対象者と,腰痛および頚肩腕痛がある対象者に福祉用具の使用が多い傾向がみられた.このことから,必要性がある際には福祉用具を使用している可能性が考えられた.ただし,入浴介護の負担を訴える一方で,入浴関連用具を用いている対象者は少なかった.これは,福祉用具使用に関する考えのうち,使用の煩わしさ,現状でできるという自信,環境上の制限等が影響していると考えられた.また,誰にも相談せずに福祉用具を購入したケースが多く,PT/OTに相談したケースが少なかったのは,学齢期以降,医療・療育機関でPT/OTが関わる機会が減少することが影響しているのではないかと考えた.一般的に高等学校卒業後,PT/OTが関わる機会は更に減少するが,介護者の体力低下,重症者及びCP者の身体機能低下が起こる成人期こそ環境調整に関する助言が必要である.地域の相談窓口や通所施設職員等と連携しながら,介護者である母親が相談しやすい環境づくりをしていく必要があると考えた.<BR>【理学療法学研究としての意義】在宅生活を送る重症者及びCP者に対する理学療法士の介入目的に介護量軽減,介護者の腰痛予防がある.これらのためには,福祉用具の使用実態と介護者の使用に関する考えを知ることは有意義である.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EbPI2386-EbPI2386, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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