キセノン光の星状神経節近傍照射に伴う四肢末梢循環動態変化に関する検討

DOI
  • 吉田 英樹
    弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域健康増進科学分野
  • 若山 佐一
    弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域老年保健学分野

抄録

【目的】<BR>キセノン(Xe)光の星状神経節(SG)近傍照射は、非侵襲的に交感神経活動の抑制および副交感神経活動の相対的な亢進を引き起こし得る手法であり、臨床的には上肢の末梢循環改善を目的として用いられることが多い。しかし、Xe光のSG近傍照射が下肢の末梢循環動態に及ぼす影響については十分に検討されていないことに加えて、上肢の末梢循環動態に及ぼす影響についても十分なエビデンスは未だに構築されていない状況にある。以上から本研究の目的は、Xe光のSG近傍照射に伴う四肢末梢循環動態変化について検討することとした。<BR>【方法】<BR>健常例60例(女性23例、男性37例、年齢23.5±3.9歳)を対象として、以下の2つの実験を実施順序をランダムとして1日以上の間隔を空けて実施した。<実験1>対象者は、15分間の安静仰臥位保持(以下、馴化)終了後、同一肢位のまま両側のSG近傍へのXe光照射(以下、Xe-SGI)を10分間受ける。<実験2>対象者は馴化終了後、Xe-SGIを伴わない安静仰臥位保持(以下、コントロール)を10分間継続する。測定及び分析項目について、自律神経活動動態の指標としては心拍変動データを採用し、各実験の順化開始時からXe-SGI及びコントロール終了時までの間、対象者の心拍変動データをスポーツ心拍計(RS800、Polar)を用いて連続測定した。その後、各実験の馴化終了時とXe-SGI及びコントロール終了時の心拍変動データを周波数解析し、副交感神経活動の指標である高周波成分(以下、HF)と交感神経活動の指標である低周波成分(以下、LF)とHFの比(以下、LF/HF)を求めた。その上で、実験1での順化終了時とXe-SGI終了時及び実験2での順化終了時とコントロール終了時との間でのHF及びLF/HFをWilcoxonの符号付順位検定により検討した。また、四肢末梢循環動態の指標としては上下肢皮膚温を採用し、測定部位を左右の第三指手掌側及び第三趾足底側の遠位指節間関節中央部とし、各実験での馴化終了時に加えて、Xe-SGI及びコントロール実施中の1分毎の上下肢皮膚温を放射温度計(Fluke-572、Fluke)を用いて測定した。その上で、各実験における対象者の順化終了時の上下肢皮膚温を基準値として、Xe-SGI及びコントロール実施中の1分毎に測定された上下肢皮膚温の基準値からの経時的変化をDunnettの多重比較検定を用いて検討した。全ての統計学的検定での有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象者に対しては、本研究の目的や本研究への参加の同意及び同意撤回の自由、プライバシー保護の徹底等について予め十分に説明し、書面による同意を得た。なお、本研究は、弘前大学大学院医学研究科倫理委員会の承認を受けた。<BR>【結果】<BR>HF及びLF/HFについては、実験2では順化終了時とコントロール終了時との間で両指標ともに明らかな変化を認めなかったが、実験1では馴化終了時と比較してXe-SGI終了時でのHFの有意な増加及びLF/HFの有意な減少を認めた。Xe-SGI実施中の上下肢皮膚温については、基準値と比較して経過中での明らかな変化を認めず、概ね一定に保たれていた。これに対して、コントロール実施中の上下肢皮膚温については、基準値と比較して経過中での明らかな低下傾向が認められ、上下肢皮膚温ともに基準値と比較してコントロール開始1分以降での有意な低下が認められた。<BR>【考察】<BR>HF及びLF/HFの結果は、Xe-SGIが交感神経活動の抑制と副交感神経活動の相対的な亢進を引き起こすことを示している。次に、上下肢皮膚温の結果について、一般にヒトが本研究でのコントロール実施中のように安静を保った場合、上下肢皮膚温は熱放散により徐々に低下することが多いが、Xe-SGI実施中に上下肢皮膚温が概ね一定に保たれた背景としては、Xe-SGIにより交感神経活動が抑制されたことで上下肢の末梢血管が拡張した結果、皮膚温上昇の一要因である末梢循環が促進された可能性が推察される。加えて、本研究で示唆されたXe-SGIに伴う四肢末梢循環動態変化は、Xe-SGIの影響がSGを発した交感神経節後線維の大部分が分布する上半身領域だけでなく全身性に波及する可能性も示唆しており、その作用機序等の解明も含めて今後の更なる検討が必要と考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究結果は、Xe-SGIが上肢末梢循環に加えて下肢末梢循環についても促進し得る可能性を示している。このことは、下肢末梢循環障害を有する症例へのXe-SGI適用の可能性を示すものであり、臨床理学療法上、極めて意義深い示唆であると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), FbPI2452-FbPI2452, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549131904
  • NII論文ID
    130005017799
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.fbpi2452.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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