高等学校家庭科の必修科目と生徒の生活行動

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タイトル別名
  • The effects of home economics education credits on senior high school students' life skills

抄録

【目的】平成10年版学習指導要領以降、高等学校家庭科は、家庭総合(4単位)や生活技術(4単位)でなく、家庭基礎(2単位)選択する学校が増加し、専任教員が減少したため、学校全体の教育課程における家庭科教師の発言力が低下しているという(野中・他2011、2012、長澤・他2011等)。高等学校家庭科は、家庭基礎のみでも充分な学習効果を上げられるのだろうか。本研究の目的は、高等学校家庭科の必修科目と生徒の生活行動の関連を明らかにすることにある。具体的には、学校内外の家庭科不要論と対峙するため、以下の二つの問いへの解答を得ることを目的とする。<br> 問1. 高校家庭科は、2単位履修すれば、充分な教科か?<br> 問2. 高校で家庭科を学ばなくても、家庭や地域、学校の他の活動だけで、子どもの生<br>      活者としての能力(本研究では、「家事」と「ケア」に注目する)を育てられるのか?<br>【方法】使用するデータは、お茶の水女子大学JELS2009のAエリア生徒調査データ(高3分)である。関東地方Aエリアの全公立高校9校に在籍する3年生(全生徒2121名)を対象とした生徒質問紙調査(2009年10~12月)であり、回収数は、1964件であった(回収率92.6%)。関東の一地域ではあるものの、エリア内の高校生の全数調査である点にデータの特長がある。対象校の家庭科の必修科目は、「家庭総合」6校(普通高校4校・専門高校2校)、「家庭基礎」3校(普通高校2校・専門高校1校)であった。<br> 分析方法として、問1に対しては、家庭総合と家庭基礎の履修者の生活行動(家族関係・近隣関係・家事・ケア)の頻度を比較する(t検定)。問2に対しては、重回帰分析により、子どもの生活行動に及ぼす他の要因(学校・家庭・地域)と家庭科の影響力を比較する。<br>【結果と考察】1.家庭科の必修科目と高校生の生活行動(必修科目別 t検定)<br>  「家庭総合」履修者の「家事」頻度、「子どもへのケア」頻度が、「家庭基礎」履修者よりも有意に高いことが明らかとなった。<br>2.高校生の「家事」・「子どもへのケア」頻度における家庭科の影響(重回帰分析)<br> 家庭科以外の要因(性別・学校・家庭・地域)を統制した場合においても、高校生の「家事」頻度は、「家庭総合」履修者であることが、有意な正の関連を示すことが明らかとなった。また、「家庭科を好き」であることは、高校生の「家事」頻度を有意に高めることが確かめられた。「子どもへのケア」頻度は、他の要因を統制した場合に、必修科目による差は見られなかったが、「家庭科を好き」であることは、「子どもへのケア」頻度を有意に高めることが確かめられた。<br> 以上の結果から、高校生の生活者としての能力(特に家事・子どもへのケア能力)は、学校・家庭・地域といった環境全体で育てるものであると同時に、家庭科も重要な影響を与えていることが明らかになった。特に高校生の「家事」頻度における家庭科の必修科目の影響は顕著であり、家庭科の学習効果を高めるためには、4単位実施が望ましいといえる。また、必修科目に関わらず、「家庭科を好き」であることが、高校生の「家事」・「子どもへのケア」頻度を有意に高めたことから、生徒が意欲的に学ぶことができる授業内容・方法の追究が課題である。<br>注)JELS2009は、お茶の水女子大学G-COEプログラム『格差センシティブな人間発達科学の創成』(拠点リーダー:耳塚寛明)の一環として実施している共同研究「青少年期から成人期への移行についての追跡的研究JELS」の一部である。筆者は、アソシエイト・フェローとしてプロジェクトに参加し、本データの提供を受けた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205595094272
  • NII論文ID
    130005021552
  • DOI
    10.11549/jhee.56.0.104.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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