格差社会における生活経営に対応したカリキュラム開発

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • A curriculum development responding to family resource management in income-gap society
  • Class analysis of Home Economics in high school
  • -千葉県高校家庭科における授業実践分析から-

抄録

【目的】<br> 報告者らはこれまで高校生を取り巻く社会環境の激変に対応した生活経営のカリキュラム開発を目的とし,継続的な研究を行ってきた。本報告では,千葉県で実施した授業実践分析を踏まえ,カリキュラムの教育的効果と課題を明らかにすることを目的としている。<br>【方法】<br> 2010年10月から12月にかけて,千葉県内の公立高校2年生200名(男子134名,女子66名)に対し,教材集『安心して生きる・働く・学ぶ』の一部を使用して授業実践を行った。分析対象とした授業は,1「一人暮らしでどのくらいお金が必要か」,2「社会保険ゲーム」,3「ホームレスからの脱出法」である。これらの授業実践で使用したワークシートに生徒が記述した考察と感想,及び全授業終了後の感想を分析した。<br>【結果及び考察】<br> 授業実践1「一人暮らしでどのくらいお金が必要か」は,正社員とフリーターの働き方別に,それぞれの収入の範囲内で1ヵ月の家計費の支出計画を立てるというシミュレーション形式の疑似体験を行うものである。その結果,簡単にできると考えていた一人暮らしのイメージが変わり,生活費には住居費をはじめとして多くの支出項目がありお金が予想以上にかかること,計画を立てて暮らすことの大変さと重要性,フリーターの生活の厳しさを強く認識していた。<br> 授業実践2「社会保険ゲーム」は,社会保険への加入・未加入の違いによる保障の格差をゲーム形式の疑似体験で学ぶ教材である。ここでは,社会保険の加入の有無によりセーフティネットの格差が生じることを理解し,未加入のフリーターの場合では,失業などのリスクに遭遇した場合生活が成り立たなくなることの認識が深まった。しかし,その解決方法としては,「自助」をあげる生徒が多く,次が「共助」で「公助」に関する記述は少なかった。この段階では,フリーターが安定した生活ができるようになるためにはセーフティネットの重要性を認識しつつも,さらなる整備が必要であることにまで考えが至っていない生徒が多いことがわかった。<br> 授業実践3「ホームレスからの脱出法」は,ホームレス状態まで転落した主人公が平常の生活を取り戻すまでを描いた体験談を通して共助,公助の重要性を学ぶ教材である。授業後の感想では,自分の現在の生活や将来の生活を重ね合わせた「自分との関わり」でとらえている記述が最も多く,なかには難しいセーフティネットの内容を身近に感じ,その重要性・必要性を認識していた。そして「共助」や「公助」に関する記述も多くみられるようになった。<br> 本カリキュラムによる教育的効果は,以下の4点である。<br>  1点目は,金銭面や社会保険,雇用形態の面から将来の生活をリアルに考えることができるようになった。2点目は,生活することは大変で,生きていくためには色々なことを学ぶ必要があることを理解した。3点目は,「生きづらい」社会のなかで自分の生活を守るためには,「自助」だけでなく,「共助」や「公助」が必要であることを理解し,セーフティネットの重要性を認識した。4点目は,格差の拡大や不安定な生活を強いられることに対し,問題点を指摘し現状の改善を社会や政府に求めようとする気持ちが生まれた。<br> 一方で,「生きづらい」社会から目を背けようとする生徒も一部みられ,課題となった。 <br><br>1 大竹美登利監修(2012)『安心して生きる・働く・学ぶ-高校家庭科からの発信-』開隆堂.(本教材集は2008-2010年日本家庭科教育学会課題研究WG3-3「現代の労働,社会福祉の諸課題に対応したカリキュラム構築-生活経営領域を中心に」の研究メンバー・研究協力者で作成したカリキュラムを発展させたものである)

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205594773376
  • NII論文ID
    130005021609
  • DOI
    10.11549/jhee.56.0.54.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ