福島原発事故以降におけるESDの視点検討

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書誌事項

タイトル別名
  • Perspective of ESD since Fukushima nuclear accident
  • analysis of home economics education course unit "Piscivorous of Japan" in the junior high school
  • 中学校家庭科単元「日本の魚食」の分析を通して

抄録

1.研究の目的と仮説<br> 福島原発事故以降,放射能汚染や原発にどのように向き合っていくのかが,問われている。衣食住の具体的な生活を扱う家庭科で,この正解がない問いについてどのように学ぶことができるのか,検討していく必要がある。その際,とりたてて学びを構想する必要もあるが,従来の単元で学ぶ必要もある。中学校家庭科の教材である「魚」については,放射能汚染の影響が心配されており,そのことを扱わざるをえない。そこで,本研究では「魚」を取り上げ,子どもとこの問題をどのように考えていけるのか,検討することにした。<br> 単元構想においては,①東日本大震災以降,二つのことが問われており,両観点を重視した。一つは,安全性である。もう一つは,そのためにも,これまでの生活のあり方とそれを支えている社会システムを今一度立ち止まって「持続可能性」から見直すことである。「魚」は,水産資源の枯渇という問題を抱え,東日本大震災を機に抜本的な見直しが求められている。放射能汚染の影響が少なく安全だと言われている商品をいかに選ぶかだけでなく,安全な食品を供給できる社会のあり方にまで目を向け,提案する学びが必要になる。<br> 次に②「子どもたちの手触りの実感」とともに,自分と関わりあることとして追究できるようにした。<br>  そのためにも,③子どもの不安や疑問に応えるべく,授業で調査・検討する内容を子どもと一緒に明らかにし,できるだけ子ども自身による調査と,全体での対話・討論を重視し,各自の見方や判断を大切にした。<br><br>2.研究の方法<br> 研究対象は,A中学校1年生の家庭科単元「日本の魚食」の授業(全20時間)である。実施時期は,2012年9月10日~11月8日。分析方法は,授業を録画した映像と子ども作成の資料,子どもが書いた「授業日記」を用い,「子どもの共同する姿」に着目し,それを意味づける子どもたちのナラティブを検討した。<br><br>3.結果と考察<br> 単元は,マイワシの手開き(冷凍して保存した)と資料「魚と長寿と日本人」の提示→個人追究→魚の栄養・健康増進効果,種類,伝統的調理方法の発表と検討→個人追究→「魚離れ」の原因の検討(消費者の問題,漁獲量の減少と買い負け,東日本大震災・放射能汚染)→原因に対する提言づくりと交流→提言を活かした「魚の調理実習」→まとめの作成という流れで展開され,以下が明らかになった。<br> 第一に,初めから放射能汚染に関心をもち,1年間魚を食べてない子や放射能汚染についてみんなで考えたい子どもがいる一方,気が進まない子どももみられた。授業が進むにつれ,「消費者の魚離れ」という語られ方に疑問をもち,仲間の問題提起を受け,水産資源の枯渇や放射能汚染について調べる子どもが増加した。提言づくりでは,消費者への働きかけを考えた「楽にさばこうプロジェクト」「みんなで作ろう魚料理」などとともに,「IQ方式導入」「FISH BIG政策」「日本ノ漁業ヲ停止セヨ」「海の安全再生プロジェクト」「放射線量表示運動」の提言もつくられたが,合意形成までいかなかった。<br> 第二に,食品中の放射性物質の基準値については,ICRPモデル,閾値モデル,ECRRモデルについて議論し,「一応の安全基準を社会はもつべきだが,実際にどの数値までなら食べるかは個人で決める。そのためにも食品ごとに放射線量を表示し,食品汚染の情報を流すべきではないか」と話し合われたことは重要である。課題としては,基準値の決め方や放射線の人体への影響が十分に理解できていない点,「風評被害」という語られ方について討論したい子どもがいたにもかかわらず,できなかった点などが挙げられる。教師がどのように争点を見据え,授業のなかでテーマを立ち上げ検討していくかが,検討課題である。<br>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205594725632
  • NII論文ID
    130005021653
  • DOI
    10.11549/jhee.56.0.94.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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