Mitochondrial Permeability Transition Poreの開口によるマウス卵子の耐凍性向上の試み

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抄録

【目的】哺乳動物卵子の凍結保存は成功例が多数報告されているが,未だに安定して高い生存率は得られていない。その主な原因は,水や耐凍剤の透過が不十分で細胞内氷晶が形成されやすいためと考えられる。ミトコンドリアは核と同様に内膜と外膜の二重の生体膜に包まれているが,核膜孔のような内外をつなぐ孔がない上,膜電位を維持するために内膜の透過性が極めて低い。したがって,ミトコンドリアは細胞内で最も水や耐凍剤が透過しにくい小器官で,細胞内氷晶形成の起点となっている可能性がある。本研究では,マウス卵子のミトコンドリア内膜に存在する水・耐凍剤チャンネルの1つであるMitochondrial Permeability Transition Pore (MPTP) の人為的開口によって,マウス卵子の耐凍性を向上させることが可能かどうかをしらべた。【方法】ミトコンドリアの脱分極をMPTPの開口の指標とした。ICR系マウスの卵管から成熟卵子を採取した。MPTPの開口剤である酸化フェニルヒ素 (PAO) によるMPTPの開口が顕著である濃度と培養時間をしらべるために,ミトコンドリアの膜分極の蛍光指示薬であるJC-1で処理した後,5~20 μMのPAOで10分間処理して培養し,JC-1の蛍光変化をしらべた。そして,PAOで処理した卵子をethylene glycolをベースとしたガラス化保存液 (EFS40) を用いてガラス化凍結し,融解後の生存性をpropidium iodideによる生死染色によってしらべた。【結果および考察】卵子を15 μMのPAOで処理した後に20分間培養した場合に,細胞に大きな損傷を与えず,MPTPが明瞭に開口することがわかった。そこで,この卵子をガラス化凍結・融解すると,無処理の卵子はほとんどの卵子が死滅したのに対し,半数以上の卵子が生存していた。したがって,MPTPを開口することによって,マウス卵子の耐凍性を向上させることが可能であるとわかった。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680691684736
  • NII論文ID
    130005051123
  • DOI
    10.14882/jrds.106.0.p-119.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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