肝臓疾患は卵丘細胞内p38MAPKの低リン酸化を介して,ウシ卵子の減数分裂の再開を遅延させる

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抄録

【目的】肝臓は代謝や内分泌機能に関与し,乳牛においては乳生産や繁殖機能にも寄与する重要な臓器であるが,肝臓と卵子の質との関係を調べた報告はない。我々は食肉センターで検査されたウシ肝臓の状態が卵胞発育の環境や卵子の体外受精および胚発生率に影響することを示している。それらの報告の中では肝臓に疾患を抱えるウシ(肝臓疾患牛)の卵子で減数分裂再開の遅延が顕著に確認されたが,その詳細なメカニズムは明らかにされていない。そこで,本研究では肝臓疾患牛における減数分裂再開の遅延の原因解明に取り組んだ。【方法】肝臓疾患牛と肝臓が全く正常なウシ(正常牛)で体外成熟中の卵子内MPF活性の推移,裸化卵子の減数分裂再開,および卵子と卵丘細胞間のギャップ結合の消失について比較した。また,Epidermal growth factor(EGF)を体外成熟培地に添加し,両区の卵子で減数分裂再開が促進されるかどうかについて検討した。さらに,体外成熟中の卵丘細胞内p38MAPKのリン酸化の推移について正常牛および肝臓疾患牛間で比較した。【結果】肝臓疾患牛の卵子では減数分裂再開が遅く,それに伴いMPF活性の上昇も遅かった。しかし,裸化卵子を培養すると,両区で減数分裂再開に差は認められなくなった。そこで,体外成熟中の卵子と卵丘細胞間のギャップ結合の消失を比較すると,肝臓疾患牛が正常牛に比べ遅かった。一方,EGFを体外成熟培地へ添加すると,減数分裂再開が肝臓疾患牛で正常牛と同程度の割合まで促進された。しかし,成熟開始時における卵丘細胞内p38MAPKのリン酸化は肝臓疾患牛で正常牛に比べ低かった。【結論】本実験より,肝臓疾患牛では卵丘細胞内のp38MAPKが低リン酸化状態にあり,卵子と卵丘細胞間のギャップ結合の喪失の遅れを介して,減数分裂再開の遅延が引き起こされることが明らかになった。本研究はJSPS科研費 25450400の助成を受けたものです。

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  • CRID
    1390001205715552256
  • NII論文ID
    130005051209
  • DOI
    10.14882/jrds.106.0.p-77.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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