てんかん妊婦の出生児の奇形・疾患の発症に及ぼす遺伝的要因について

  • 管 るみ子
    福島県立医科大学医学部神経精神医学講座 板倉病院
  • 疋田 雅之
    福島県立医科大学医学部神経精神医学講座 塙厚生病院精神科
  • 上島 雅彦
    福島県立医科大学医学部神経精神医学講座 竹田綜合病院精神科
  • 矢部 博興
    福島県立医科大学医学部神経精神医学講座

書誌事項

タイトル別名
  • Genetic Factors of Congenital Malformations and Diseases in the Offspring of Women with Epilepsy

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抄録

てんかん妊婦の出生児の奇形・疾患に及ぼす遺伝的要因について検討した。対象は1971年7月から2015年2月までの間に妊娠・出産に際して福島県立医科大学心身医療科で関わったてんかん患者から出生した177名である。177名中25名に奇形・疾患を認めた。奇形例は12例で、その内訳は口唇・口蓋裂4名、心奇形3名、口蓋裂+心奇形1名、先天性虹彩欠損1名、片腎症1名、くも膜嚢胞1名、合趾症1名であった。背景となる妊婦の治療状況は単剤例が多く、投与量の平均値もいずれの薬剤の投与量の平均値も他の報告例より少なかった。我々の例では投与量が少ないため奇形発現に対する薬剤の影響が低くなっている可能性がある。さらにくも膜嚢胞の例と合趾症の例は妊娠中未服薬であった。奇形例12名中7名(58.3%)において1~3度近親に同じ奇形を認めた。また、片腎症と合趾症の例は3世代に及ぶ常染色体優性遺伝形式を持つてんかんの遺伝負因を有していた。特筆すべきは、先天性虹彩欠損例で妊婦の夫が同奇形、くも膜嚢胞の例では妊婦自身も同奇形であったことである。奇形とてんかんの両方の遺伝負因のない例での奇形発現率は168例中3名(1.8%)に過ぎなかった。奇形以外の疾患ではてんかん・熱性けいれんが10名、生後半年で突然死1名、自閉症1例、ダウン症1例、両外斜視1名を認め、両外斜視例は妊婦の夫に同じ疾患を認めた。てんかんの発症を含め、25例中18名(72%)に奇形と疾患発症に遺伝的要因・染色体異常が認められた。未服薬でも奇形の発現があること、てんかんの発症を含め、遺伝的要因が多く認められたことから、てんかん妊婦の出産に際しては遺伝的要因についても考慮すべきである。また、遺伝負因のない例での奇形発現率は低いため、てんかん妊婦の治療において必要以上に薬剤の影響を怖れることなく、適剤を単剤で必要最小限の量で使うというてんかん治療の基本を守るべきである。

収録刊行物

  • てんかん研究

    てんかん研究 33 (3), 653-662, 2016

    一般社団法人 日本てんかん学会

参考文献 (14)*注記

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