長期間にわたる筋力低下を呈した卵巣癌術後患者のリハビリテーション経過

DOI
  • 小宮 大輔
    地方独立行政法人大牟田市立病院 リハビリテーション科

抄録

<p>【はじめに】</p><p>大量出血を伴った卵巣癌術後に長期間の筋力低下を呈した症例を経験した。このような症例の機能的・能力的予後に関する報告は、我々が渉猟し得た範囲では見当たらない。一方、ICU関連筋力低下(以下、ICUAW)に関しては近年いくつかの知見がある。例えばそのクライテリアとして、重症疾患発症後における漸進的衰弱の発現、脳神経機能障害を除外したびまん性・左右対称性・弛緩性の筋力低下、MRC筋力スケールで合計48点以下、人工呼吸器管理下、既存の重症疾患が衰弱の原因として除外される、が提唱された(Stevensら,2009)。また、ICUAWのリスク因子として、高血糖症、腎移植、SIRS、長期人工呼吸(30日)、敗血症、多臓器不全などが挙がる(Stevensら,2007ほか)。他方、その予防として電動エルゴメータは安全(Pires-neto ら,2013)で、有効である(Burtinら,2009)ことや、血糖コントロールや早期離床は有効(Patelら,2014)と報告された。これらの知見に照らし本症例の経過を報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>70歳代女性。身長148.0cm、体重39.6kg、BMI 18.0。H27年9月、1ヶ月程度続く腹部膨満感を主訴に当院を紹介受診。ADLは自立。既往に胃癌(全摘出術後)あり。同年10月、原発性卵巣癌の疑いで、腫瘍減量術として両側付属器切除、子宮体上部切断術、S状結腸切除術、腹膜播種病巣切除術、S状結腸単孔式人工肛門設置術を施行された。術後診断は卵巣癌Ⅲc期(T3cNxM0)で、腫瘍切除率は95%以上を完遂した。手術時間は7時間00分、出血量は11,145mであった。術後はICUに収容されたが、出血性DICとなり輸血療法を必要とした。術中からの全輸血は、RBC54単位、FFP52単位、血小板60単位に及んだ。循環動態が安定し始めたPOD4に理学療法開始となった。</p><p>【経過】</p><p>POD4、人工呼吸器管理中であるも徐々に全身状態に改善が得られ、加えて鎮静深度がRASS -1であったため、四肢自動介助運動、体位排痰法、電動エルゴメータ、ティルトアップによる座位練習を開始。POD8に人工呼吸器離脱・抜管。POD9より端座位練習、POD12より車椅子移乗練習を開始。鎮静終了後、意識レベルはJCSⅠ-1であるも、MRC筋力スケールは37/60点、左右対称性・びまん性・弛緩性でありICUAWの発症が疑われた。POD6からPOD16までの血糖値は平均234.4mg/dlと高値であった。POD28より平行棒歩行練習を開始。徐々に歩行補助具を簡略化し、POD67より杖歩行練習を開始。POD77に杖歩行にて試験外泊、POD100に自宅退院となった。退院時の体重は28.8kg、Performance Status(以下PS)は3、Barthel Index(以下BI)は80点(階段・入浴にて減点)であった。POD40より化学療法が開始され、退院後も短期入院にてH28年4月まで合計6サイクル実施された。POD151の評価では体重30.3kg、BMI13.8、MRC筋力スケール45/60、PS3、BI 75点(階段・入浴・歩行にて減点)であり、体重減少と筋力低下が遷延しADLにも低下を認めた。</p><p>【考察】</p><p>本症例には理学療法開始時よりICUAWのクライテリアに合致する症候やリスク因子があった。我々は本症例をICUAWのハイリスク症例と考え、その予防や転帰改善に有効とされ、かつ入手・実施できる介入手段を用いて早期に運動や離床訓練を提供した。その後の継続した介入により歩行での自宅退院を実現させたことは評価されうる。しかしながら、機能的・能力的転帰は自立した生活を送るには不十分であり、特に筋力低下や体重減少の遷延が目立った。今後は注意深く回復過程を観察し、訪問リハビリテーションなどの在宅で受けられる専門的サービスの導入を検討すべきと思われた。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>今回の報告にあたって、本症例には趣旨を説明のうえ同意を得た。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680602599040
  • NII論文ID
    130005175396
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2016.0_233
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ