がん患者に対するPT早期介入は有効である

DOI
  • 内山 匡将
    関西労災病院 中央リハビリテーション部 関西労災病院 NSTチーム
  • 棏平 司
    関西労災病院 中央リハビリテーション部
  • 柳 智恵子
    関西労災病院 看護部 関西労災病院 NSTチーム
  • 竹野 敦
    関西労災病院 消化器外科 関西労災病院 NSTチーム
  • 望月 圭
    関西労災病院 消化器内科 関西労災病院 NSTチーム

書誌事項

タイトル別名
  • ~介入時期別ADLならびに栄養状態の改善度評価より~

この論文をさがす

抄録

【はじめに】地域がん診療連携拠点病院である当院には,様々ながん治療の目的で多くの患者が入院している。入院期間中の治療や長期臥床に伴い身体能力が低下することは避けられないが,その低下を最小限に抑え,機能の維持改善を図り,円滑な在宅退院や転院をサポートするために,理学療法(PT)が果たす役割は大きいと言える。しかしPTが介入するべき適切な時期についての検討はなされていない。【目的】PT介入前後におけるADLおよび栄養状態を評価し,介入開始時期別に分類した2群間で比較検討することにより,がん患者に対するPT早期介入が与える効果について明らかにする。【方法】2011年度および2012年度にPTを実施したがん患者392名から,死亡退院患者65名とデータ欠損患者73名を除いた254名を対象とした。PT介入前後のADLをFIM(Functional Independence Measure)により評価し,栄養状態を血清アルブミン(ALB)値,総リンパ球数(TLC),ならびに血清総蛋白(TP)値により評価した。入院からPT開始までの日数の中央値が8日であったことから,8日未満を早期群(139名),8日以上を遅延群(115名)として2群に分類し,各因子を後方視的に解析した上で比較検討を行った。統計学的解析方法はt検定を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を受けて実施した。【結果】2群間において,疾病科目比率,入院時年齢,入院時の血清アルブミン(ALB)値,総リンパ球数(TLC),ならびに血清総蛋白(TP),退院時の総リンパ球数(TLC)ならびに血清総蛋白(TP),PT開始時ならびに終了時のFIMの点数(総合点・運動項目合計点・認知項目合計点)に有意差を認めなかった。一方,在院日数は早期群vs遅延群が37.6±28.0 vs 60.5±37.1日(p<0.01),退院時のALB値は3.2±0.6 vs 3.0±0.7 mg/dL(p<0.05)といずれも有意差を認めた。PT開始時と終了時のFIMの総合点数の変化を在院日数で除した割合(FIM効率)は,早期群が0.67±1.17,遅延群が0.34±0.48と有意差を認めた(p<0.01)。さらに運動項目合計点,認知項目合計点においても0.64±1.12 vs 0.34±0.44(p<0.01),0.03±0.13 vs 0.00±0.10(p<0.05)といずれも有意差を認めた。すなわち早期群は遅延群と比較して在院日数が約23日間短いうえにFIMの改善率が高く,ALB値がより高値となった状態で退院することが可能であった。【考察】今回の検討でPT早期介入が良好な効果をもたらした要因としては,筋肉減弱症(サルコペニア)の影響が考えられる。サルコペニアの原因には,加齢,活動(廃用),疾患,栄養などがあるが,すべてのサルコペニアで筋蛋白質の合成低下,もしくは分解亢進によるインバランスが認められるといわれている。筋蛋白質合成の低下には,インスリン様成長因子(IGF-1)などの低下が関与しているとされるが,運動によってIGF-1が増加するという報告は,筋蛋白質合成の低下に対するPTの有効性を示唆すると思われる。一方筋蛋白質分解の亢進には腫瘍壊死因子(TNF-α)やインターロイキン6(IL-6)が影響しており,TNF-αは悪液質を生じる疾患で高く,IL-6は高齢者で高いという報告があることから,今回の対象患者全般で筋蛋白質分解が亢進状態にあることが示唆される。すなわちPT介入が遅れるほど筋蛋白質の合成低下ならびに分解を進行させる可能性があることを意味する。今回の結果は,サルコペニア対策としてのPT早期介入により廃用予防や早期離床が図られ,在院日数の短縮や入院中のADLの改善につながったことを示しており,また栄養状態の維持改善にも間接的に関与した可能性を示唆するものと思われる。【理学療法学研究としての意義】がん患者に対するPT早期介入は,在院日数の短縮や入院中のADLの改善をもたらし,栄養状態の維持改善にも良好な影響を及ぼす可能性が示唆された。

収録刊行物

キーワード

詳細情報

問題の指摘

ページトップへ