和歌山県における中等症以下の救急事象を対象とした二次保健医療圏単位での搬送実態

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • An investigation of emergency transportation of mild and moderate patients on  each secondary medical district in Wakayama prefecture

抄録

はじめに <br> 近年,救急搬送において収容医療機関の選定が困難な事案が全国各地で発生し,社会問題化している。その背景には,救急医療需要の増大と提供体制のミスマッチがあると考えられており,近年の救急搬送件数の増加は軽症および中等症患者の増加によるとの報告もある。 <br> 救急医療対策の整備事業については,昭和52年7月6日医発第692号厚生省医務局長通知により,傷病の程度に応じて初期救急から三次救急までの3区分で体系的な整備が行われてきた。そのなかで二次救急医療は,初期救急医療機関からの転送患者を含め,緊急の手術や入院治療を必要とする重症救急患者に対処するもので,病院群輪番制参加医療機関と救急告示医療機関がその役割を担うとされている。この二次救急医療は,都道府県が作成する医療計画に基づき整備された二次保健医療圏内で完結することが想定されている。今日では,こうした想定を実現すべく,救急医療体制を堅持する仕組みづくりが急務とされている。 <br> 本研究では,二次保健医療圏単位で完結することが想定されている中等症以下の救急事象を対象として,和歌山県における救急搬送の実態を明らかにすることを目的とした。具体的には,救急車搬送記録を用いて,現行の二次保健医療圏ごとに曜日,時間帯,主要診断群Major Diagnostic Category(以下,MDC)分類の観点から圏内圏外搬送割合を分析し,二次救急における搬送実態について把握した。 <br> <br>Ⅱ データと分析手法<br> 行政が保管していた既存データを活用した二次分析研究である。和歌山県の救急車搬送記録のデータを用いた。これには,出動消防本部名,傷病者番号,救急隊判断程度,緊急度,入電年月日,入電時分,収容医療機関名,収容交渉回数,初診医診断名,初診医分類基準,初診医傷病程度,確定診断名,確定分類基準,確定傷病程度が収録されている。2014年1月1日から12月31日の1年間に覚知された全救急事象42,772件のうち,転院,ヘリ転送,未搬送,不搬送であったものを除外し,救急隊判断程度を中等症以下に絞った31,450件を解析用のデータセットとして整備した。 <br> 先ず,出動消防本部名,収容医療機関名に基づきそれらの所在地を二次保健医療圏ごとに分類し,救急事象の起点と終点の関係から圏内搬送と圏外搬送の情報を付加した。次に,入電年月日に基づき平日と土日祝の2区分で曜日を分類し,入電時分に基づいて時間内,時間外,深夜の3区分に分類した。MDC分類については初診医診断名に基づき18区分に分類した。これらの分類に基づいて,本研究で対象とした救急事象31,450件について,その特徴を分析し,記述統計値を得た。全体での救急搬送の概要を把握し,曜日別(平日,土日祝),時間帯別(時間内,時間外,深夜)の圏内搬送と圏外搬送の割合を分析し,さらにMDC分類で層別化したうえで同様の分析を行った。<br> 本研究は,和歌山県立医科大学倫理委員会にて「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に基づく倫理審査を受け,承認を得て実施した(承認番号1674-1)。 <br><br> 二次保健医療圏別の搬送実態 <br> 和歌山県は7つの二次保健医療圏で構成されている。100万人余りの総人口の43.5%が県庁所在地を有する和歌山圏に集中しており,圏域ごとの人口や医療資源の偏在は,救急医療体制とニーズとのミスマッチを生じさせる要因の一つと考えられている。 <br> 二次保健医療圏の圏内搬送割合は全体で91.8%であった。圏域別に圏外への搬送割合をみると,那賀圏,有田圏は和歌山圏へそれぞれ27.3%,35.3%,御坊圏は田辺圏へ17.0%が搬送されていた。他の圏域からの救急搬送患者を最も受け入れていたのは,和歌山圏1543件,次いで田辺圏366件であった。<br> 和歌山圏,田辺圏,新宮圏は,いずれの分析においても,圏内の搬送割合が80%台後半から100%の結果となり,曜日,時間帯,MDC分類にかかわらず,搬送先の圏内圏外に明らかな差は認めなかった。那賀圏,有田圏は,全体の分析で圏外への搬送割合が25%を上回っており,平日より土日祝,時間内より時間外,さらに深夜という順に圏外搬送割合が有意に高かった。橋本圏,御坊圏は,全体でみると圏内搬送割合が80%前半から90%台であり,曜日,時間帯,MDC分類別にみると圏内搬送割合が約60%のものも示された。<br><br> おわりに<br> 本研究では,救急車搬送記録を用いて和歌山県の中等症以下の救急事象を対象とした搬送実態について圏内圏外搬送割合を数量的かつ客観的に示すことで,現行の二次保健医療圏の特徴を捉え,課題を導出した。二次保健医療圏によりその特色は異なるため,その実態に応じた対策を立案することが,今後の救急医療を支える一助となる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671825536
  • NII論文ID
    130005279859
  • DOI
    10.14866/ajg.2016a.0_100152
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ