入院期急性冠症候群患者における心肺運動負荷試験指標と最大歩行速度の関連性について

DOI
  • 太附 広明
    相模原協同病院医療技術部リハビリテーション室
  • 野間 靖弘
    相模原協同病院医療技術部リハビリテーション室
  • 河原 朋子
    相模原協同病院医療技術部リハビリテーション室
  • 直井 大地
    相模原協同病院医療技術部リハビリテーション室
  • 壬生 和博
    相模原協同病院医療技術部リハビリテーション室
  • 相澤 達
    相模原協同病院循環器センター循環器内科
  • 井関 治和
    相模原協同病院循環器センター循環器内科
  • 神野 宏司
    東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科ヒューマンデザイン専攻
  • 杉田 記代子
    東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科ヒューマンデザイン専攻

抄録

【はじめに】心疾患患者に対する心肺運動負荷試験(CPX)指標と運動機能との関係は回復期以降の研究が多く急性期は少ない。また,CPX指標は無酸素性代謝閾値(AT)やpeakVO2など運動耐容能が多く用いられているがVE-VCO2 slope,⊿VO2/⊿WR,運動処方強度などの指標との関連性についての報告は少ない。そこで,本研究の目的は入院期の急性冠症候群(ACS)患者のCPX指標と最大歩行速度(MWS)との関連性を明らかにするとともにMWSから運動処方強度を推定できないか検討することとした。【対象と方法】対象は2011年10月~2014年9月に当院入院後,心臓リハビリテーション(心リハ)を実施しCPX後にMWSを測定できた男性ACS患者146例(62.2±12.0歳,32~86歳)である。調査項目は年齢,身長,体重,BMI,糖尿病,高血圧,脂質異常症,喫煙,CK最高値,NT-proBNP,LVEF,E/E',CPX指標(VE-VCO2 slope,⊿VO2/⊿WR,AT,運動処方強度),MWSである。CPXは自転車エルゴメーターを用いたランプ負荷にて実施した。ランプ負荷は原則10ワットランプとしたが,5ワットで7例,15ワットで1例,20ワットランプで3例実施し,VE-VCO2 slopeはRCポイントまでを解析した。MWSは10m(予備路3mずつ)を2回測定し,速い値を解析値とした。安全性確保のためCPX後に実施し,検査前後にバイタルチェックを行った。除外基準は下肢の麻痺や明らかな運動器疾患合併例,ウォーミングアップでATを超えていた症例,CPXにて胸痛,心筋虚血や重篤な不整脈を生じた症例,埋め込み型除細動器やペースメーカー症例,心リハ非実施例,人工透析患者,呼吸器疾患合併例である。統計学的手法はCPX指標とMWSを含む各項目間の関連性をピアソンの積率相関係数にて求めた。次いでCPX指標を目的変数,MWSを含む相関関係を認めた項目を説明変数とした重回帰分析(強制投入法)をおこなった。これらの検定は有意水準を5%未満とした。【結果】CPX実施は8.0±4.6病日(最頻値6病日),MWSはCPXと同日もしくは翌日に測定した。CPX指標の平均値はVE-VCO2 slope:;30.15±5.54,⊿VO2/⊿WR;7.62±1.37 ml/min/W,AT;9.57±2.13 ml/kg/min,運動処方強度;34.66±13.50 Wであった。またMWSの平均値は1.71±0.38m/sであった。MWSとCPX指標はVE-VCO2 slope(r=-0.343,P<0.001),⊿VO2/⊿WR(r=0.325,P<0.001)とAT(r=0.230,P<0.01),運動処方強度(r=0.348,P<0.001)とそれぞれ有意な相関を認めた。CPX指標を目的変数とした重回帰分析はVE-VCO2 slope(説明変数:MWS,年齢,身長,体重,NT-proBNP,E/E',R2=0.338,調整済みR2=0.306),⊿VO2/⊿WR(説明変数:MWS,年齢,身長,体重,E/E',R2=0.227,調整済みR2=0.190),AT(説明変数:MWS,年齢,E/E',R2=0.073,調整済みR2=0.053),運動処方強度(説明変数:MWS,年齢,身長,体重,E/E',R2=0.310,調整済みR2=0.285)であった。このうち運動処方強度の重回帰式はy=4.531+(-0.177×年齢)+(0.153×身長)+(0.253×体重)+(-0.656×E/E')+(3.802×MWS)であった。【考察】CPX指標とMWSは関連性を認めたが相関は弱く,MWSのみでCPX指標を判断するのは困難と考える。しかし,今後の課題であるが,傾向としてMWSがある一定水準あればCPX指標も一定の値以上を示す基準となりうる可能性はあると推察する。CPXの運動時間は8分~12分程度で終了することが望ましいとされる。対象者の体力に対しランプ負荷が大きすぎるとウォーミングアップでATに達してしまい測定が困難である。逆にランプ負荷が小さすぎると測定時間が長くなり非効率である。したがってCPX実施前に運動処方強度を予測しておくことはCPXを効率的かつ有効に実施するために重要といえる。本研究にて運動処方強度とMWSを含む項目との関連性が認められ,CPXのランプ負荷設定に利用できる可能性が示唆された。また,従来の心拍処方や自覚的運動強度(RPE)と組み合わせて運動処方に利用することが可能と考える。しかし,決定係数が低いため今後検証していく必要がある。さらに対象が入院期の患者であり,CPX指標は経時的に改善するため回復期以降の症例では差が生じると考える。本研究はCPXを否定するものではなく,CPXのランプ負荷決定やCPXが実施できない場合に役立てるものである。【理学療法学研究としての意義】入院期ACS患者のCPX指標とMWSの関連性が明らかになった。精度が低いがMWSから運動処方強度が予測でき,ランプ負荷設定やRPEや心拍処方と組み合わせた運動処方に利用できる可能性がある。

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  • CRID
    1390282680550996864
  • NII論文ID
    130005416537
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.1593
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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