急性冠症候群に対し緊急冠動脈バイパス術を施行した一症例のリハビリテーション経験

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抄録

【はじめに,目的】急性冠症候群(ACS)の初期治療は経皮的冠動脈インターベンション(PCI)などの内科的治療が第一選択となり,緊急冠動脈バイパス術(CABG)が必要となる症例はより重症化している。手術成績は待機例の比し不良であり,緊急CABGに対する心臓リハビリテーション(CR)経過についての報告は少ない。今回,心房細動(Af)を有するACSに対し緊急CABG(4枝)を施行した症例に対し,CRを実施しADL再獲得した症例を経験したので報告する。【方法】60代,男性,身長161.0cm,体重75.0kg,入眠中に前胸部痛・圧迫感を自覚した。動悸症状が続いたため近医受診し,ECG上のAf変化,I・aVL・V4~6でST低下,V1~3でST上昇を認めACSの疑いで当院紹介され入院となりIABP挿入となった。既往に慢性Af,高血圧,脂質代謝異常症あり。心臓カテーテル検査ではLMT-75%,LAD#6-75%,LCX#11-50%,#13-50%,RCA#1-75%,#2-90%でありLMTを含む多枝病変を認めたため,同日,緊急人工心肺下CABG及び肺静脈隔離術,左房縫縮術を同時に施行した。バイパスはLITA-LAD#7,SVG-Diag1#9,SVG-LCX#12,SVG-RCA#3を吻合した。【結果】術後1病日に覚醒し挿管チューブを抜管し,2病日にIABPを抜去しCRを開始した。意識レベル清明,血圧92/72mmHg,心拍数97bpm(Af,APC),リザーバーマスク・酸素流量8LにてSpO299%であった。カテコラミン投与はイノバン及びドブポンが各0.9μg/kg/minであった。血液検査はWBC12.9×103/μL,Hb11.5g/dL,CK1868 U/L,CK-MB23 U/L,CRP5.5mg/dL,トロポニンI12.31ng/mLであった。術後モニターではAfと120~140bpm台の頻脈を認め,X-Pでは無気肺・胸水貯留を認めた。CRとしては,血行動態及び心拍数が不安定であったため3病日までベッド上での基本動作練習及び二次的肺合併症を予防するための呼吸法・自己排痰法を中心に実施した。4病日に歩行練習を開始し一般病床帰室,10病日に200m歩行,12病日に独歩にて500m歩行,15病日に階段昇降が可能となり,17病日にCR目的に転院となった。運動療法中に呼吸苦の出現や血圧の低下を伴ったため,ウォームアップや弾性包帯使用を励行し離床を進めた。また運動療法は歩行やレジスタンストレーニングなどを低負荷及び高頻度に実施することやself exerciseを指導することで廃用に伴う虚弱の予防に努め,血圧管理などの指導を行い自己管理の啓蒙を図った。Afはアンカロン内服により洞調律への復帰が得られる時間帯もあり,病棟看護師と共同してCRを実施し,活動量の増加や歩行練習の充実を図った。転院時,意識レベル清明,血圧146/91mmHg,心拍数99bpm(Af),SpO299%(room air),体重69.75kg,血液検査はWBC11.9μL,Hb13.0g/dL,CK 39U/L,CK-MB4 U/L,CRP3.91mg/dL。ADLはBathel index85点,6分間歩行は360m,ハンドヘルドダイナモメーターは右2.79N/kg,左2.76N/kgであった。【考察】本症例では周術期の血行動態が不安定であり,心拍数の速いAfの持続がみられた。ACSに対する緊急CABGは虚血の残存や進行によって血行動態が不安定な症例が多いとされ,緊急CABGの死亡率は12.3%と待機手術の1.7%に比べ有意に高い。CRにおいても運動療法に伴う呼吸性の疲労や頻脈・血圧低下が著名にみられたため,ウォームアップや弾性包帯使用の励行,Afに対する内服コントロールの把握,CRを低負荷・高頻度に実施することで離床及び活動範囲の拡大を図った。手術後の経過は,離床・歩行開始時期に遅延がみられ,当院での待機CABG後の平均在院日数12.1日に比べ17病日と経過の遅延がみられた。術後の理学療法介入の遅延因子として,術後合併症,Af,疼痛,高齢,女性,緊急手術,術前心機能,術後不整脈などが報告されている。本症例においては,術後無気肺・胸水貯留の合併,Af,緊急手術といった遅延因子を有しており離床やレストアップが遅延したが,ACS発症時に心原性ショックに至らなかったため,CRを段階的に施行できたと思われる。【理学療法学研究としての意義】ACSに対する緊急CABG患者のCR経過について報告した。緊急CABGではLMT病変・多枝病変・低左室駆出率・心破裂といった重篤な病像を呈しており,その後の回復に影響を与えるとされる。本症例は術後のAfや無気肺・胸水貯留といった合併症により離床が遅延したが,介入方法を工夫することで運動負荷を確保し,ADL向上が図れた。緊急CABGのCR報告は少なく,今後症例を蓄積し安全な離床・運動負荷についての考察を進めていきたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680551019136
  • NII論文ID
    130005416541
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.1585
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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