階段降段時の膝関節動揺解析―手すりの有無による違い―

DOI

抄録

【はじめに,目的】変形性膝関節症の進行に,歩行や階段昇降の立脚初期における膝関節側方動揺の大きさが関与するといわれており,この膝関節側方動揺の因子を抽出することは意義深い。階段昇降は膝関節側方動揺,疼痛が出現しやすく,痛みにより階段昇降が困難な患者が,手すりを用いることで痛みが軽減することを経験する。しかし,手すりを用いた階段昇降時の膝関節側方動揺は定量的に捉えられておらず,膝関節側方動揺の大きさと痛みの関係は明らかでない。本研究の目的は,健常者の階段降段時に,手すりの使用が膝関節側方動揺にどの様に影響するかを検証し,階段降段時の膝関節負荷の基礎的資料とすることである。【方法】対象は膝関節に既往歴のない,健常男性3名(身長171.7±7.4cm,体重56.3±1.5kg,年齢23.0±1.73歳)女性3名(身長164.2±9.9cm,体重60.0±8.7kg,年齢20±0.0歳)の計6名とした。計測は,対象者の右腓骨頭に3軸無線加速度計(ワイヤレステクノロジ―社製)を非伸縮テープ(ニチバン社製)で装着し,算出された加速度を膝の動揺とする直接計測法で行った。加速度計のサンプリング周波数は1000Hzとした。測定試技は,10段の階段を110step/secの速さで降りることとし,手すりを使わない通常の階段降段動作(以下,通常降段)と,手すりを用いる階段降段動作(以下,手すり有り降段)の2種類の試技を行った。手すり有り降段では,計測肢である右足が接地する前に左手で手すりを把持する様に指示した。踵接地時の衝撃として計測波形の上方加速度を観察することにより右足接地期を同定した。解析は4,6,8歩目の右脚接地期の最も大きな側方加速度を算出し,その平均値を算出した。その最大側方加速度を,通常降段時と手すり有り降段時で対応のあるt検定を用いて比較した。【結果】膝関節側方加速度ピーク値の平均は,通常降段で1421.7±510.3mG,手すり有り降段で2001.9±735.4mGであり,手すり有り降段が,通常降段と比較し,有意に外側方向に大きな加速度を有していた。【結論】階段降段時の手すり使用により,手すりを使用しない時よりも膝関節側方動揺が大きくなった。今回の試技は,速さや手すりの使用方法を規定されたものに合わせるという課題であり,運動が不安定となり,右足接地期の膝関節側方動揺が大きくなったと考える。また,手すりを用いて上肢での体重支持を行うことで,右脚で体重を支持する筋出力が減少し,膝関節側方動揺が大きくなったのではないかと考える。今回,階段降段時の手すり使用による膝関節の痛みの軽減は,関節側方動揺の大きさは関与していない可能性が示唆された。また,手すりの使用が必ずしも膝関節の安定性を向上させない事が示唆された事から,特に手すりの使用に慣れていない膝関節疾患の術後や急性期の患者においては,膝関節側方動揺にも着目して指導を行う必要があると考える。今後は,手すりの使用方法や形状による違い,変形性膝関節症患者での検討が課題である。

収録刊行物

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205574956288
  • NII論文ID
    130005417358
  • DOI
    10.14900/cjpt.2015.0355
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ