視覚情報量の違いが跨ぎ動作の見積もり誤差に与える影響

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抄録

【はじめに】高齢者の転倒は寝たきりの原因となることが多い。転倒の原因である内的要因としては,身体機能,認知機能などが考えられるが,身体機能に比べ,認知機能に関する予防策は少ない。認知機能に関しては,自己身体の認識誤差が転倒につながると考えられており,先行研究においても,岡田らは,高齢者の転倒歴とFunctional Reach Testの見積もり誤差に有意な関係があると報告しており,河合らは,目標物の有無がリーチ動作の見積もりと実際に影響を与えると報告している。しかし,視覚情報量の違いが見積もり誤差に与える影響に関しての研究は少ない。本研究は,見積もり誤差を身体の認識誤差と考え,転倒との関連が強い歩行動作に近い跨ぎ動作に着目し,視覚情報量の違いが,跨ぎ動作の見積もり誤差に与える影響について研究した。【方法】対象は健常成人40名(平均年齢26.2±3.8歳,身長166.0±8.9cm,体重56.6±8.8kg)とし,運動課題は,開眼立位にて下肢を最大限前方へ振り出す跨ぎ動作とした。視覚情報なし1条件,視覚情報あり3条件の計4条件とし,対象者を無作為に振り分けた。a視覚情報なし群の見積もりは,床に貼付した白線の上に最大跨ぎ距離と思われる位置に印を付けてもらった(見積もり値)。一度視覚を遮断し,その後,前方を見ながら跨ぎ距離の測定をした(実測値)。見積もり値と実測値の測定は3回行った。視覚情報あり群は,床に貼付した白線に直角に黒テープをb5cm,c15cm,d25cmを貼付し3条件とした。3条件共にa群と同様に見積もり値,実測値を測定した。統計学的検討は,統計ソフトFreeJSTATを使用し,見積もり値から実測値を減じた見積もり誤差の絶対値を,対象者1回毎の値を算出し代表値とした。代表値を用いて各4群間の測定値と郡内の変化を一元配置分散分析で検討し,効果がみられた場合,多重比較法(Tukey法)を併用した。なお,有意水準は5%未満とした。【結果】測定1回目の代表値の群間比較を行ったところ,a群15.3±9.8,b群10.7±9.2,c群18.7±11.6,d群16.7の間に有意な差は認められなかった。回数ごとの群内比較においては,b群では,1回目10.7±9.2と2回目17.2±12.5,1回目と3回目19.6±15.7,c群においては1回目18.7±11.6と3回目12.1±13.1において有意な差が見られた。a,d群に対しては有意な差は見られなかった。【結論】今回の研究結果において,直接的な視覚情報量の違いは,見積もり誤差に影響を及ぼさない可能性が示唆された。しかし,b群とc群において,運動経験を重ねることで見積もり誤差が有意に変化した。これは,視覚情報量の違いが体性感覚情報に影響を与え,運動の効率性に関与した結果であると考えられる。高齢者の転倒を回避するためには,視覚情報となる環境を適切に設定し,運動経験を重ねることが,自己身体の認識誤差を効率的に軽減させ,内的要因より,転倒予防につなげることができるのではないかと考える。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680556298880
  • NII論文ID
    130005418669
  • DOI
    10.14900/cjpt.2015.1637
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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