インドの園芸農産物輸出

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タイトル別名
  • India's horticultural export
  • 2000年代以降の生鮮品輸出の拡大
  • Increase in the fresh foods since 2000

抄録

1990年代以降,青果物をはじめとした生鮮農産品の貿易が注目されている。欧米を中心としたこれらの研究は主にヨーロッパとアフリカ,あるいは北米と南米間の貿易を中心とした成果である。こうした新たな農産物貿易を形成した背景やメカニズムに対しての研究が進められている(Hughes 2000,Dolan and Humphrey 2004, Hughes and Reimer eds. 2004,Fold and Pritchard 2005)。これに対して筆者は日本を中心としてアジアの青果物貿易に光を当ててきた(荒木1997,2009a,Araki 2005)。こうした背景を踏まえて,近年急速に園芸農産物,とくに生鮮野菜や果実の輸出を拡大しているインドに着目し,環インド洋地域において形成されつつある農産物貿易の新たなパターンを描き出すことに取り組んだ。<br>近年のインドの園芸農産物輸出については,2000年代以降の急速な拡大を指摘することができる。1990年代には百万トンに満たなかった輸出量が,2000年代後半には3百万トン前後となっている。統計の母体が異なるために厳密な比較はできないものの,日本の同品目の輸入量は4百万トン余(2010年 日本貿易振興会『アグロトレードハンドブック』より冷凍野菜,熱帯果実,生鮮野菜,漬け物・野菜調整品,果実飲料,乾燥野菜,温帯野菜,かんきつ,切花の合計)である。インドは日本の同カテゴリーの輸入量をやや下回る程度の輸出量を有しているといえる。  輸出量において特徴的なのは生鮮タマネギを筆頭にした生鮮品(野菜,果実,花卉)の輸出の拡大である。その一方で,かつては少なからぬシェアを有していた乾燥野菜・貯蔵野菜(dried and preserved vegetables)は2000年代以降輸出量そのものが減少している。また,漬け物類(pickles and chutneys)は2008-09年度以降,統計区分から除外されている。マンゴー果肉(mango pulp)やその他の加工青果物(other processed fruits and vegetables)は一定程度の輸出量を維持しているものの,シェアは低下している。輸出額においては,総じて加工品の単価が生鮮品のそれよりも高いために,生鮮品のシェアが圧縮された形になるものの同様の生鮮野菜や生鮮果実のシェアの増加が確認できる。<br>品目別で高い単価(Rs/kg)を示すのはクルミ類の298Rsや種子類の157Rs,花卉類の103Rsなどである(2010-11年度)。クルミ類の輸出先は,英独仏やスペイン,エジプトが中心で,花卉類は米英独蘭と欧米諸国が多数を占めている。一方,種子類ではおよそ半量がパキスタンに単価113Rsで輸出される他,バングラデシュにも72Rsで出荷されている。一方これらと比べて輸出量は多くないものの,日米や,オランダ,シンガポール向けの単価は500~1000Rs程度に達する。このため輸出量では20倍以上の開きのあるパキスタンとオランダが輸出額では拮抗する。  <br>これに対して生鮮青果物の単価は廉価で,主要品目の中ではブドウが40Rsで最も高く,マンゴー28Rs,バナナ18Rs,野菜類ではタマネギ15Rs,ジャガイモ9Rs,トマト17Rsなどである。輸出量の最も多いタマネギはバングラデシュ,スリランカという隣国に15Rs前後で出荷される他,17Rsでマレーシア,15RsでUAEとイスラム諸国にも出荷されている。同様にトマトは輸出量のほぼ半量がUAEに22Rsで出荷されるのに対して,輸出量の3割を占める隣国のバングラデシュ向けの価格は10Rsである。果実類でもブドウの輸出量の4割を占めるバングラデシュ向けの単価は14Rsであるのに対し,UAE向けは47Rsとなる。なお欧州向けは60~80Rs以上である。マンゴーの輸出は拮抗するバングラデシュとUAEで全量の8割を占めるが,前者の単価は14Rsであるのに対して,後者は39Rsである。バナナの場合は,多くがUAE,サウジアラビア,イラン,クェートなどの産油国へ概ね20~25Rs程度で出荷されるのに対し,隣国ネパールへの単価は6Rsである。<br>以上のように,近年急速に拡大するインドの園芸農産物輸出は生鮮品の拡大を特徴とするが,その内訳は安価な隣国向けに加えて,比較的高単価の中東産油国向けの輸出量が相当程度の割合を占めている。環インド洋地域をめぐって,新たな生鮮農産物貿易が構築されはじめていることが指摘できるとともに,その動向を注視していきたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696524544
  • NII論文ID
    130005473472
  • DOI
    10.14866/ajg.2013a.0_100001
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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