北極圏スピッツベルゲン島中央部における不淘汰構造土の動態と多様性
書誌事項
- タイトル別名
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- Dynamics and variability of non-sorted patterned ground in central Spitsbergen
抄録
1.はじめに<br> 北極ツンドラ地帯の地表面には大小様々な模様で縁取られる構造土が広く分布しており,土質表層土からなる平坦面では主に不淘汰円形土(マッドボイル,ハンモック)と不淘汰多角形土がみられる.マッドボイルとハンモックはいずれも不等凍上や塊状変位,凍結圧などが成因として挙げられており,同じ成因から異なる形状が形作られるとも考えられている.一方,不淘汰多角形土は小型(径1 m以下)が乾燥クラック起源,大型(径5 m以上)が凍結クラック起源という見解でほぼ一致しているが,中型(径1~5 m)の成因に関しては十分な見解が示されていない.北極圏スピッツベルゲン島中央部のアドベントダーレン地域では,旧扇状地という狭い範囲内にマッドボイル,ハンモック,複合型構造土(中型多角形土の中心部にマッドボイルを伴う),氷楔(大型)多角形土の4種の異なる不淘汰構造土が分布している.本研究では,それぞれの構造土の地盤・環境条件や表層土の変位特性の比較をもとに,同じ気候条件下で異なる形態の構造土が生じる原因について考察した.<br>2. 地盤・環境条件の比較<br> 調査地に選定した旧扇状地の約700 m四方の範囲内に4種類の構造土が分布する.マッドボイルは調査区域の上流部~中流部に,複合型構造土は中央部に分布する.空中写真判読と地形測量に基づくと,マッドボイル分布域は旧河道,複合型構造土分布域は砂州の範囲に対応する.マッドボイル分布域は粘土質シルトの沖積堆積物からなる.一方,複合型構造土分布域では,中心のマッドボイル部分は沖積堆積物,縁辺の中型多角形土部分は砂質シルトの風成レスで構成されており,粒土組成のコントラストが大きい.ハンモックは低湿地帯に分布しており,土壌水分が高く,積雪深も厚い.湿潤な条件を反映して,表層は腐植土で覆われる.氷楔多角形土は扇状地末端部に分布しており,レスの供給源となる主流の網状河川に近いため風成レスが厚く堆積する.また,局所的な地形,風速の違いにより積雪深が非常に薄いため,他の構造土分布域よりも冬季地温が低く,凍結クラックが起こりやすい条件下にある.このように場の条件の違いによって,表層土の粒土組成,土壌水分,積雪深が異なるため,結果として多様な構造土が狭い範囲に分布している.<br>3.表層土の変位特性 <br> マッドボイルでは,植生を欠く中央部と植生で覆われた縁辺部間で明瞭な差別凍上がみられた.最大凍上量はマッドボイルの中心部で10~15 cm,縁辺部でせいぜい5 cm程度である.一方,ハンモックでの最大凍上量は約11 cmに達したものの,マウンド部分と周囲の凹地部分とで差別凍上はみられなかった.しかし,融解期にマウンド部分が凹地部分よりもゆっくりと沈下する動きがみられたことから,マウンド内部の根系の抵抗力により不等沈下がマウンド形状の維持に寄与していることが推察される.マウンド内部が腐植土で充填されていること,マウンド上に植生が密に繁茂することから,植生分布の不均一性がハンモック形成の一因と考えられる.<br> 中型多角形土を縁取る地表クラックの水平変位を観測した結果,クラック幅は凍結進行期に縮小し,融解期に拡大する季節周期性の変形パターンが認められた.自動インターバルカメラにより取得した画像データでは,マッドボイル中心部での差別凍上・沈下に対応するように縁辺部の地表クラックが収縮・拡大する動きが捉えられた.これらの結果から,調査地に分布する複合型構造土は,マッドボイルの差別凍上による体積膨張収縮の繰り返しにより,縁辺部へ水平方向の圧縮・収縮が繰り返され,不規則な地表クラックを伴う中型多角形土の形態が形作られたものと考えられる.<br> 液性・塑性限界試験を行った結果,中型多角形土を伴わないマッドボイル分布域では,マッドボイル縁辺部の表層土は沖積起源のため粘土含有量がやや高く塑性を示した.一方,複合型構造土分布域では,中型多角形土部分の表層土はレス起源のため粘土含有量が低く非塑性を示した.このような土質の違いが,構造土の形態に違いを生じさせているものと考えられる.<br> 融解期の体積収縮により不淘汰多角形土を縁取る地表クラックが拡大するという考えは,20世紀前半に提案されていたが,検証不足から支持されてこなかった.本研究では,地盤条件次第でこのプロセスが起こりうることが示された.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2014s (0), 100097-, 2014
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205694345600
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- NII論文ID
- 130005473631
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可