山岳氷河の後退域における種多様性パターン

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  • Patterns of plant species richness on a glacier foreland in the Tropical Andes

抄録

I はじめに<br>近年,地球温暖化の影響が様々な生態系において顕在化している.熱帯の高山植生も例外ではなく,気温上昇やそれに伴う氷河の後退,消滅により,深刻な影響が生じつつある.そのため,熱帯における高山植生の成立過程を明らかにし,現在進行中の気候変化による影響を予測することが急務である(Herzog et al. 2011).こうしたことから,発表者らは2012年より熱帯高山における気候変化による生態系への影響を明らかにする目的で,熱帯アンデスの氷河後退域において調査を行ってきた.<br>  一般に植生発達過程や遷移系列を明らかにするためには,当該地域への植物の侵入定着プロセスを考慮する必要がある.特に,高山植物は厳しい寒さなどの環境に適応するため,特有の生活型や生育形をもっており(Nagy & Grabherr 2009),氷河後退域への侵入定着プロセスは種毎に異なることが予想される.<br>そこで,本研究では,熱帯アンデスの氷河後退域における高山植物の分布やその種多様性のパターンについて明らかにするとともに,出現種の生活型や生育形を考慮した植生発達について検討した. <br><br>II 調査地と方法 <br>本研究の調査対象地はボリビア・アンデス,チャルキニ峰(5329m)西カールである.このカールの氷河後退域における植生発達を明らかにするため,標高4800mから5000mで成立年代の異なるモレーン上に計140カ所の調査プロット(2×2m)を設け,植生調査を行った.ターミナル・モレーンでは,40mのラインに沿って,2m間隔で調査プロットを設置し,ラテラル・モレーンでは標高10m毎に調査プロットを設置した.調査プロットでは,植被率,出現種,裸地の比率,最大礫のサイズなどを記載した.なお,植物の同定はHerbario Nacional de BoliviaのMeneses教授に依頼した.<br><br>III 結果と考察 <br>チャルキニ峰西カール氷河後退域のモレーン上には,主にイネ科とキク科からなる35種が出現した.イネ科のDeyeuxia nitidulaが優占しており,木本種のSenecio rufescensBaccharis alpinaや草本種のBelloa conoideaPerezia multifloraが高い頻度で出現した.<br> 一般化線形モデルによる解析の結果,植被率とは異なり種多様性はモレーン年代との対応は不明瞭であった一方で,標高傾度と良い対応関係が認めら,成立年代が同じでも標高が高いほど種多様性が低くなっていた.出現種の生活型組成は,ラウンケアの区分のうち地表植物(Ch)と半地表植物(H)で主に構成されていたが,高標高域では地表植物(Ch)やイネ科を除いた半地表植物(H)の出現頻度が減少した.また,生育形についてみると,低木型や叢生型の種群は標高が上昇しても出現頻度はほとんど変わらなかったが,クッション型やロゼット型の種群の出現頻度は,4800-4850mでは両者ともほぼ全てのプロットで出現したのに対し,4900m以上ではそれぞれ26%と40%と,標高の上昇にともない急激に低下した(表1).このことは,山岳氷河の後退域において,新たな種の侵入や定着には標高傾度に沿った環境条件の差異が影響しており,その結果として種多様性と標高との対応関係が表れたと考えられた.<br> 本研究から,熱帯高山の氷河後退域における植生発達にはその成立年代だけでなく,標高に沿った環境条件に影響を受けた植物種の侵入定着プロセス関与することが明らかとなった.今後,地球温暖化による熱帯の高山植生への影響を理解するために,こうした植物群集の形成に影響する要因についてさらに考慮していく必要があると考える.<br>本研究は、平成25年度科学研究費補助金基盤研究(A)「地球温暖化による熱帯高山の氷河縮小が生態系や地域住民に及ぼす影響の解明」(研究代表者:水野一晴)による研究成果の一部である.

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  • CRID
    1390001205696656000
  • NII論文ID
    130005473829
  • DOI
    10.14866/ajg.2014s.0_100273
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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