インド繊維・アパレル産業の空間構造と産業集積

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  • Spatial Structure and Industrial Agglomeration of the Textile and Apparel Industry in India

抄録

1.国際競争の激化とインドの成長<br> インドの繊維・アパレル産業は,同国におけるGDPの4%,輸出割合の11%を占め,雇用者数は農業に次ぐ1億人の規模に達している(Ministry of Textiles 2013).また,斯業の世界貿易においては,欧米諸国に安価な製品が大量に流入するのを防ぐために1970年代から実施されていた多角的繊維協定(MFA)が2005年に撤廃された.これによりバングラデシュなど労働コストの低廉な国からの製品輸出が増大し,国際競争が過熱している.インドにおいても輸出量が増加し,2013年には繊維製品の輸出総額が世界2位となっており,今後の動向が注目される.こうしたなか,国内では産業集積の形成が進むなど(Apparel Export Promotion Council 2009),新たな空間的展開がみられる.<br> そこで本研究はインドにおける繊維・アパレル産業の空間構造を明らかにするとともに,デリー首都圏を事例に,繊維・アパレル産業集積の構造を把握することを目的とする.<br>2.インド繊維・アパレル産業の生産構造と空間構造<br> 繊維・アパレル産業は,「原料生産」,「紡績」,「織布」,「染色・加工」,「縫製」の工程(部門)から成る.本研究でいう繊維・アパレル産業は,これらの工程全体を示す.斯業では各工程の専門性の高さや発展経緯などから,垂直的な分業体制がとられている.インドの場合も同様であり,さらに工程によって産業構造や立地特性も異なる点が同国の大きな特徴である.<br> 本研究では,生産規模の大きい「織布」と「縫製」の工程に注目する.まず,両者とも小規模企業が卓越している.「織布」工程は,織り手が手動で布を織る手織部門,動力による力織部門,工場部門に分けられ,力織部門が8割以上を占める.民族衣装のサリーや装飾が施された布類の生産は手織部門による部分が比較的大きい.縫製工程(アパレル)は近年まで生産留保制度や外資出資比率規制が適用され,小規模企業が優遇されてきた.2000年代以降は豊富で低廉な労働力を求めて外資が進出している.<br> 立地特性は工程などにより異なる。縫製(アパレル)工程の場合,北インド(デリー特別州,パンジャーブ州,ハリヤーナー州,ウッタル・プラデーシュ州)や南インド(タミル・ナードゥ州,マハーラーシュトラ州,カルナータカ州)を中心に展開している(ここでは,零細企業など非組織部門を非対象とする年次工業調査(Annual Survey of Industries)を元にした分析による).一般に,斯業は労働集約的であるため,大量の労働力を確保することが可能である都市部を中心に立地する傾向を有する。インドの場合,これに加えて,当該地域が調達してきた素材の種類(シルクや綿)や,地域の社会集団における衣服類の嗜好(色やデザイン)の差異,そして発展経路などを背景として,様々な特性をもつ産業集積が形成されている.<br>3.大都市内部の産業集積—デリー首都圏の事例<br> デリー首都圏は,国内有数の繊維・アパレル産業の集積地域である.ノイダやグルガオンといった郊外の工業地域において繊維・アパレル工場の集積が認められ,他産業とともに産業空間を形成している.その一方で,大都市内部では作業場レベルの小規模な繊維・縫製工場が多数立地している.これらは豊富な労働力を背景としながら,特定の社会集団と結びついて産業集積を形成している.そのような集積地域の1つであるジャミア・ナガールは,デリー市街地のヤムナ川沿いに立地するムスリム居住地である.多数の工場が雑居ビルの一室で操業しており,染色,ブロックプリント,手織・刺繍やミシン織りといったように,斯業の川中・川下工程が工場ごとに展開している.工場の創業にかかる初期費用は比較的少額に抑えられることから,起業が容易であり,工場の新設が相次いでいる.製品は主に国内市場向けであるが,業者を通じた欧米への輸出も確認される.北インドの貧困州の農村部から地縁・血縁による男性移住労働者が流入しており,彼らが当該地域の労働市場を支えているだけでなく,デリー首都圏の人口増大と都市化の進展をもたらしている.<br> 【文献】 Apparel Export Promotion Council 2009. Indian Apparel Clusters: An Assessment. New Delhi.<br>Ministry of Textiles 2013. Annual Report 2013-14. New Delhi.

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  • CRID
    1390282680671489280
  • NII論文ID
    130005489788
  • DOI
    10.14866/ajg.2015s.0_100109
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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