琵琶湖東沿岸地域における感染症媒介蚊の生息ポテンシャルマップの検証

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  • Validating potential habitat maps of vector mosquitoes in the eastern coast of Lake Biwa, Japan

抄録

Ⅰ.研究背景 近年では、都市化や温暖化による媒介蚊の生息域の拡大や、航空機・船舶等の輸送機器発達よって蚊媒介性感染症の新たな拡大が懸念されている(Tatem et al. 2006)。この感染症を媒介する蚊の分布域や個体数は、蚊の生態に関わる土地利用・土地被覆から構成される景観によって主に規定される(Trawinski and Mackay 2010)。そこで、米島ほか(2015)では、実際に観測された媒介蚊の個体数と土地被覆との関係から、吸血飛来する日本脳炎およびマラリア媒介蚊の潜在的な個体数分布をそれぞれ推定した生息ポテンシャルマップを、GIS環境を用いて作成した。本研究では、この2種類の媒介蚊の生息ポテンシャルマップの妥当性を、別年次に実施した新たな媒介蚊の捕集調査の資料を用いて検証した。<br><br>Ⅱ.方法 本研究では、日本脳炎媒介蚊であるコガタアカイエカおよびマラリア媒介蚊であるシナハマダラカ群を対象とした。対象地域は、滋賀県琵琶湖東沿岸地域にあたる彦根市、東近江市の旧能登川町地区、旧安土町を含む近江八幡市である。生息ポテンシャルマップの作成にあたっては、湖沼、河川など多様な水域の周囲20地点において2009年5月から10月にかけて実施した、成虫蚊の捕集調査資料を利用した。土地被覆のデータは、衛星画像(ALOS、2009年5月18日撮影)から画像分類し、各調査定点周囲、半径50mから3kmまでの土地被覆の面積構成比を利用した。そして、観測された捕集個体数と土地被覆との関係性を、偏相関最小二乗法(PLS)回帰分析を用いて実施した。分析によって、最も適合度の高い半径のPLS回帰モデルを採択し、GIS環境において2種類の媒介蚊の生息ポテンシャルマップを作成した。さらに、2010年6月から10月にかけて16ヵ所で実施した成虫蚊の捕集調査資料を用いて、作成した生息ポテンシャルマップの妥当性を検証した。<br><br>Ⅲ.結果・考察 PLS回帰分析の結果、コガタアカイエカの個体数変動は半径900mの土地被覆によって約64%が説明され、シナハマダラカ群の個体数変動は半径100mの土地被覆によって約49%が説明できた。これらの最適モデルを用いて作成した生息ポテンシャルマップによって、コガタアカイエカは水田が広がる平野部に、シナハマダラカ群はヨシが生育するような水域や湿地帯周辺に、生息個体数が多いことが示された。<br> 作成した生息ポテンシャルマップの妥当性を検証するために、ポテンシャルマップから抽出した蚊の生息個体数の推定値と、2010年に実施した蚊の調査定点の観測値について相関関係を分析した。その結果、シナハマダラカの生息ポテンシャルマップは比較的高い精度で予測されており、妥当性が高いことが確認された(r = 0.55、p = 0.03)。一方、コガタアカイエカの生息ポテンシャルマップと検証に利用した観測値との相関関係は低く (r = 0.30、p= 0.27)、とりわけ西の湖周辺および河川の近接する調査地点の精度が低いことが確認された。対象地域では、季節特有の風があり(豊田1991)、水域周辺では障害物がなく、風の影響を受けやすいため、推定値と観測値の差が大きくなった可能性がある。また、土地被覆の年次変化の反映や、土地被覆分類での水域の区分を、蚊の発生条件を考慮して再検討するなど、生息ポテンシャルマップの精度向上に関するさらなる検討が必要と考えられた。 

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671278976
  • NII論文ID
    130005490200
  • DOI
    10.14866/ajg.2015a.0_100132
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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