大阪の公衆衛生:集団医学の道

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タイトル別名
  • Public health activities in Osaka: A way of implementing collective medicine
  • オオサカ ノ コウシュウ エイセイ : シュウダン イガク ノ ミチ

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抄録

<p> 「大阪の公衆衛生」が,わが国の国民健康づくりの歩みを先導し,その成果をもとに特定健診・保健指導が発足して,わが国の公衆衛生は「集団医学」推進の基本の体制を確保した。本稿の目的は,わが国の公衆衛生が「集団医学」を推進するまでに発展した歩みについて,その過程を担った人たちが出版,発表した文献を辿ることによって,その道筋を明らかにすることである。</p><p> 関悌四郎先生が,イギリスに学んだ,自治体の役割の強化,保健サービスにおける予防と治療の協力体制の推進が,「大阪の公衆衛生」の基本理念である。中谷肇先生は,この理念を実現することが自治体の医療機関,保健所の役割であるとの認識のもとに,大阪府立成人病センターなどの建設に尽力した。その成人病センターを拠点に進めた,地域における循環器疾患の予防管理活動の20年の実績をもとに,小町喜男先生が報告した「地域の特性の把握のうえに立って,疾患の予防,あるいは管理が具体的に行われるという経験を得た」をモデルに,1981年,国民健康づくり計画モデル事業が実施され,その後のわが国の健康づくり対策が推進された。結果として国民の平均寿命の順調な延伸が達成されたが,医療費の高騰が続いていることが報告され,基本健康診査,定期健康診断における,疾病の「早期発見」による「早期治療」は受診者を結局,安易に医療に繋いでいるだけではないかと認識された。このような中で,大阪大学教授の松澤佑次が,内臓脂肪蓄積を共通の要因として,高血糖,脂質異常,高血圧を呈する病態を「メタボリックシンドローム」として,冠動脈疾患などの「上流」にある病態であると報告した。これを受けて,2008年,「特定健診」に加えて,「メタボリックシンドローム」への対応を目的とした「特定保健指導」が実施される制度が発足した。これによって,糖尿病等の生活習慣病を予防するという観点に立った,疾病予防管理の一貫した体制が発足した。予防と治療の協力体制の構築を目指した「大阪の公衆衛生」が,その目標を達成したといえる。</p><p> 特定健診・保健指導の制度のもとでは,対象の集団を「集団医学」の対象として位置づけ,構成員の疾病予防につながる基本の因子を明らかにし,保健指導を行い疾病を予防することが期待されている。</p><p> 日本の公衆衛生医は誇りを持って,期待されている「集団医学」の実践を進め,臨床医学の治療に並んで疾病の予防を担う,新しい公衆衛生の世界を構築する必要がある。</p>

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