地生態系サービスとしての山岳の水供給機能

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タイトル別名
  • Mountains' water supply function as a geo-ecosystem service

抄録

環境省による昭和と平成の名水百選によって、全国に計200の名水が誕生した。そのうちの68%が湧水(湧水と河川などの複合型を含む)であり、さらにその93%が山麓部(火山30%、非火山63%)に存在する。海外の地理学者・山岳研究者の間では、山を「天然の給水塔(natural water tower)」にたとえ、ライン川流域における山国スイスの河川流出寄与率(=45%)が面積割合(=22%)を大きく上回ることなどを強調している。こうした例を引くまでもなく、山岳の水供給機能は一般にもよく知られた事実であり、重要な生態系サービスの一つに数えられている。しかし、いわゆる「緑のダム論争」でも議論されたように、森林が必ずしも水供給量を増やすとは限らない。森林土壌が形成されることで渇水期の水供給量を増やす効果は期待されるが、火山体や扇状地には生態系の種類や状態に関わらず流出量の安定化をもたらす機能が備わっている。したがって、山岳の水供給機能を考えるとき、エコシステムだけでなく、ジオシステムとしての機能も併せて考える必要がある。本稿では、そのような機能を「地生態系サービス」として定義しなおし、水供給機能に焦点を当てた分析事例を紹介する。水供給を人間社会へのサービスとして考えれば、その最大化と安定化という2つの視点が有り得る。これらの機能は、豊水量と低水量という流況指標を用いて数値化できる。演者らは、中部地方170地点における延べ3178年分の河川流量・ダム流入量データを収集・編纂し、国土数値情報等を用いた多変量解析によって、豊水量・渇水量を規定する自然・人為因子の特定とその影響力の評価を試みた。豊水量を目的変数とした重回帰分析では、年降水量・年平均気温・年最大積雪深・台地面積・火山面積・第四期堆積岩類面積などが有意な変数として選択された。一方、低水流量を目的変数とした重回帰分析では、最大積雪深を除く気候因子は有意でなかった。このことは、低水流量が雪氷や地下水としての水貯留機能の良い指標となっていることを示唆する。重回帰式の偏回帰係数として評価された低水流量への影響力はゴルフ場・スキー場・荒地(森林限界以上の高地が主)で大きく、これらの面積が大きいほど低水流量が減少するという結果が得られた。これに対し、台地(扇状地)・水田は面積が大きいほど低水流量が増加する傾向が認められ、森林も弱いながら正の影響を有していた。以上の結果から、ゴルフ場やスキー場の建設といった山林伐採・斜面造成を伴う開発行為は流域の保水機能を低下させた可能性が強い。一方で、流域の保水機能を維持するためには扇状地や水田を適切に管理することが重要と言える。今後、こうした機能を地生態系サービスとして再認識し、流域圏管理や国土政策に活かすことが望まれる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694412032
  • NII論文ID
    130005635670
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100123
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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