ボルネオ産マドガ科の1新属・新種の記載ならびに新種の幼生期の形態および生態(鱗翅目,マドガ科)

DOI
  • 吉安 裕
    Laboratory of Applied Entomology, Graduate School of Life and Environmental Sciences, Kyoto Prefectural University
  • 清水 加耶
    Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University
  • 市岡 孝朗
    Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University

書誌事項

タイトル別名
  • A new genus and species of the picture-winged moth from Borneo, with morphology and biology of the immature stages (Lepidoptera, Thyrididae)

抄録

<p>マレーシアのボルネオ島産のオオバキ属(Macaranga)植物3種を寄主とするマドガ科の1新属の1新種を記載し,DNAバーコード情報を登録した.また,その幼生期の形態と生態について初めて記述した.本種は,初め Robinson et al. (1994)によって未記載種 Pharambara sp.として分類され,近年は Sutton et al.(2015)で Collinsa sp. 2 として図示されていた.この両属のタイプ種について,翅の翅形と斑紋ならびに♂交尾器の形態を比較・検討した結果,本新種はこの近縁のいずれの属にも属さず,また,これらが属するマダラマドガ亜科 Siculodinae の他属とも形態的に異なることが明らかになったので,本新種に対して,新属Shafferiella Yoshiyasu, n. gen.を創設した.</p><p>The genus Shafferiella Yoshiyasu, n. gen.</p><p>頭部にケトセマと単眼を欠く.触角は雌雄とも糸状.ラビアル・パルプスは細く上向する.翅脈は他のマドガ科の属と同様に各脈が基部で融合することはない(Fig. 1D).翅の斑紋は全体にクリーム色を呈し,前翅の翅頂部付近に特徴的な白色の短い帯をもち,前・後翅の中央には比較的顕著な暗色の横帯がある.♂成虫の第8と第9腹節間の節間膜は長く,その一部に1対のヘア・ペンシルをもち,交尾器のバルバは細長く,後半部はとくに細まることで,近縁のPharambara属やCollinsa属から区別できる.♀交尾器では,交尾口は狭い;ドクツス・ブルサエは細長,楕円形のコルプス・ブルサエには小歯をもつシグヌムを有する.これらの形質のうち,前翅の翅頂部付近の短い白帯,♂成虫の第8と第9腹節間の長い節間膜,および♂交尾器のバルバの状態の共有によって,下記のCollinsa属として扱われていた種pallida(ウスマダラマドガ)と種 hamiferaを本新属のもとに置いた.</p><p>Shafferiella pallida (Butler, 1879), 新結合</p><p>Shafferiella hamifera(Moore, 1888), 新結合</p><p>Shafferiella macarangae Yoshiyasu, Shimizu-kaya & Itioka, n. sp. (オオバギマダラマドガ:新称和名)</p><p>成虫(Figs 1A-C).前翅長:♂7.8–9.4 mm,♀8.5–10.8 mm.頭部は淡褐色.ラビラル・パルプスは暗褐色で湾曲して上向し,第3節は短く細い.触角は雌雄とも前翅の約1/2の長さ;糸状であるが,やや扁平.前脚は短く,中脚は後脚よりも長い.前翅はやや細長く,淡褐色で目立たないが細く短い茶色の横線が全体に分布する;前縁部に7個の小白斑をもつ;翅頂付近の亜外縁部のR4脈とM2脈間に三日月状の白色条斑をもつ;M2室には3–5個の小黒点が並ぶ.後翅は短く,淡褐色で,多数の弱い網目状の細い線のほか,中央部には明瞭な褐色横線が斜め内方に走る.</p><p>♂交尾器 (Fig. 2):テグメンは背面の前方でV字型に陥入し,側面からみて背部は波打つ;ウンクスの基部は幅広いが,後方部は幅が狭く側面からみて鎌状を呈しその背側部には多数の小刺毛を具える;グナトスはウンクス基部からテグメン腹面に沿って前方に伸び,腹中線上の針状のコクレアに終わる;バルバは基部を除き細長く,背方に緩く湾曲して後方に長く伸びる;内面基部には小突起のある硬化部をもつ.サックスから前に伸長する弱い硬化部にヘア・ペンシルがあり,バルバ全体を側面から覆うように後方に伸びる.</p><p>♀交尾器 (Fig. 3):交尾口は狭く,その腹面にはやや硬化した逆三角形の突起が形成される;アントルムは小さく発達;ドクツス・ブルサエは細長く,コルプス・ブルサエは長楕円形で小さなシグヌムをもつ;第8腹節の背板は短く,アポフィシス・アンテリオリスは第7腹節背板の約1/3の長さ;アポフィシス・ポステリオリスはアンテリオリスよりやや長い;パピラ・アナリスは丸く側部に多数の刺毛をもつ.</p><p>卵 (Figs 5A-E). 長さ0.52 mm, 直径0.25 mm.やや長い俵状で,精孔部のある上面はやや細く,産下面の下面は扁平.側部には13または14本の規則的な縦の稜線をもち,それらの間には多数の等間隔の横線が平行して走る.</p><p>終齢幼虫(Figs 4-5).体長15-18 mm,頭幅1.6-1.7 mm.円筒形.頭部は一様に淡橙色でP1とA3刺毛を除きその他の刺毛は短い.6個の個眼は比較的小さく離れて分布.マンディブルは茶色,ほぼ四角形で4歯を有する.前胸背盾は淡黄褐色で,後方部が隆起する;背盾下の気門は大きく円形.中胸と後胸は短く,後胸では中胸に比べD, SD, L刺毛群はより前方に位置し,短い.胸部3節のL刺毛群とSV刺毛群はそれぞれ2本.胴部は半透明の淡い黄褐色;刺毛は発達し,特に背方の刺毛は長い.第1腹節のSD1刺毛は短く,気門の斜め後方にある;L1とL2の刺毛基板とL3の刺毛基板の間で気門の腹方には内側に嚢状器官をもつ.第1–8腹節のSD2刺毛は痕跡的.第9腹節ではD1とD2刺毛は同一基板上にあり,反対側の同刺毛基板と背中線で合一する;L刺毛は1本.第1–9腹節のSV刺毛は,それぞれ,2,3,3,3,3,3,2,1,1本.第3–6腹節の腹脚の鉤爪は約50本からなり,不規則な三様の円環状配列.第10腹節の腹脚には半環状配列の不規則な三様の約20本の鉤爪をもつ.</p><p>蛹 (Fig. 6).体長8.5–10.5 mm, 横幅2.5–2.8 mm.体形は太く短いが,他の種に比べてやや細く,茶褐色.触角は前翅の約4/5の長さ,中脚はほぼ前翅端に達する.後脚は口吻先端の後方に短く現れる.</p><p>生態 (Figs 8-9).卵は寄主の葉の裏面に,個々の卵が一定の間隔をおいた集団で産下される.1集団における卵数は平均83.3個であった.孵化幼虫は葉脈沿いに天幕状の絹糸を紡ぎその中にいて,葉の表皮を摂食する.中齢期になると葉縁に移動し,そこで葉を直線状に裁断し,中肋に向かって葉を巻いて巣(第一の巣)をつくり,巣内部の葉を摂食する.齢が進むと最初の巣を遺棄し,上の方の新しい葉に移動し再度葉縁から葉脈とほぼ直角となるように裁断し,その部分から内方に葉を巻いて円筒形とそれを覆う円垂形部分からなる新たな巣(第二の巣)をつくる.終齢幼虫は第二の巣の円筒形部分の片方を絹糸で固くとめて中で蛹になる.本マドガの寄主となるオオバキ属の3種はすべてアリとの共生関係をもついわゆるアリ植物であるが,野外ではマドガ幼虫が寄生していた植物には寄生されていなかった植物と比べてアリ類の随伴は少なく,マドガ幼虫とアリ類との遭遇も観察されなかった.</p><p>寄主植物.Macaranga bancana (Miq.) Müll. Arg., M. trachyphylla Airy Shaw, M. umbrosa S. J. Davies (トウダイグサ科).</p><p>分布.マレーシア(Sarawak, Sabah, Kalimantan Tengah, W. Malaysia), シンガポール.平地から標高 1,200 m までの低高地.</p>

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 68 (1), 20-33, 2017

    日本鱗翅学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680243602432
  • NII論文ID
    130006242821
  • DOI
    10.18984/lepid.68.1_20
  • ISSN
    18808077
    00240974
  • 本文言語コード
    en
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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