炎症性腸疾患におけるNotchシグナル異常と分子標的の可能性

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  • 渡辺 守
    東京医科歯科大学大学院 消化器病態学 消化器内科

抄録

炎症性腸疾患は、遺伝的素因を持った個体に複数の環境因子が加わった結果として引き起こされる、腸管粘膜免疫の過剰応答が病態の主体である事が示されてきた。この考えに基づき、免疫異常をターゲットとする分子標的治療が臨床の場に登場し、炎症性腸疾患においても驚くべき治療成績を示した事から、過剰免疫応答を制御する生物製剤が次々と開発されている。しかしながら治療の目標が「炎症の制御」から「粘膜治癒」にステップアップしつつある現在、我々は炎症性腸疾患の難治化が単に粘膜免疫異常による炎症に起因するのではなく、腸上皮に内在する再生・組織修復機構の異常もまた重要な因子として存在し、「粘膜治癒」の達成には同機構の解明・是正が必要であることを明らかとしてきた。ヒト腸管粘膜の免疫応答調節と上皮組織修復の両者に腸管杯細胞が重要な役割を担っている事、同細胞の分化・成熟過程がNotchシグナルとその下流の転写因子群に制御されている事、腸管上皮細胞におけるNotchシグナルはWntシグナル経路と直接的に結びつき、協調的に機能する事により、粘膜再生応答における増殖・分化調節を実行するのみならず、古典的な大腸発癌過程における形質制御にも関わっている事、など我々独自の研究から得られた炎症性腸疾患における粘膜修復過程の分子機序について、最新の知見を紹介したい。さらにNotchシグナルの機能が炎症性サイトカインにより制御される可能性、などの新しい知見も加え、炎症性腸疾患においては「粘膜免疫異常」と「上皮分化・再生障害」が一つのシグナルを接点に炎症、潰瘍、癌といった種々の病態を起こしている可能性を議論したい。またNotchシグナルが炎症性腸疾患の各病態において如何なる役割を担い、如何なる制御を受けているか、を明らかとすることにより展望される、分子標的としての可能性、及び新規治療への道程と未来像を考えてみたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205525796864
  • NII論文ID
    130006950069
  • DOI
    10.14906/jscisho.37.0.15.0
  • ISSN
    18803296
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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