注視麻痺により歩行障害を呈した症例へのアプローチ
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- 福嵜 裕一郎
- 医療法人 秋津会 徳田脳神経外科病院
抄録
【はじめに】<BR> 今回、脳幹部梗塞により注視障害となり歩行障害を呈した症例に対しアプローチ実施し、若干の知見を得たので報告する。<BR> 【症例紹介】<BR> 症例は82歳男性。X年12月13日に橋下部背側脳幹部に発症し、保存的療法。初期時のブルンストロームステージは右上肢、右下肢、右手指ともに6レベル。平衡機能低下見られ立位時ふらつきがあり歩行は困難。ADLはバーサルインデックス40点。<BR> 【理学療法アプローチ及び経過】<BR> 1~5のような段階を考え実施。1.平行棒内にて麻痺側への荷重練習と交互の下肢の振り出し。2.立位バランス練習。3.歩行練習。4.離れた台の上にペグを置き、取る。続いて片目にて実施。5.ペグを台の上に同間隔に並べ、またペグの上にペグを重ねる。以上をパターン化し繰り返し練習実施。発症から1週目では立位バランス不安定であり、歩行にもふらつきがあり転倒リスク高い状態であった。下肢の交互の振り出しも困難。左目を隠すことでふらつき軽減。2週目では杖歩行実施するが順序上手くいかず、杖なし歩行で試すとふらつきは残存するが介助にて歩行は可能。3週目には平行棒内にて歩行安定。杖歩行安定傾向であり監視にて可能。4週目では片目を隠し歩行練習行う。ふらつきは軽減し歩行は安定するが距離感がつかめないという問題が出現。これに対し杖を使用し距離感を杖で代償する。5週目にはふらつきは軽減し、歩行安定。歩行距離延長し病棟内フリーとする。ADLは入浴以外自立レベル。在宅に向けてのシミュレーション実施。<BR> 【考察】<BR> 症例は、脳幹梗塞にて注視障害となり、歩行障害となった。脳幹部では感覚線維のほかに種々な脳神経核や運動神経線維が密着しているので、この部の障害では感覚のみが侵されることはなく、いろいろな脳神経症候、運動障害を伴う。本症例では橋背側部にある傍正中橋網様体(以下、PPRFと略)が障害部位である。PPRFは橋の外転神経核の高さで内側縦束よりやや腹側にあり、1ミリ程度の障害でも障害側への注視障害と眼振急速相の消失、反対側への眼球共同偏倚を起こす。発症当初より麻痺の影響は少なかったが注視障害の影響で物が二重に見えたり、目の前が回ったりと歩行やADLに大きな阻害因子となっていた。立位・歩行が安定してからは、視覚刺激を減らす方法として、日常の生活場面に適応しやすい方法である眼帯を用いた。左目を隠しADL練習を中心に行った。視覚遮断している間は効果的であるが視覚を開放すれば見え方は崩れ一定しなかった。練習を続ける中で片目での生活になれADLは自立となった。退院時、注視障害は残存し、日常生活においては外出時眼帯着用が必要となった。車の運転は危険と判断し、本人も納得した上で中止するように指導した。今回注視障害の予後不良を感じたが、視覚遮断することで歩行能力向上を認めた。今後更に注視障害に対するアプローチを検討したい。
収録刊行物
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- 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 2007 (0), 2-2, 2007
九州理学療法士・作業療法士合同学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680601583104
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- NII論文ID
- 130006985091
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- ISSN
- 24238899
- 09152032
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可