生殖細胞特異的変異原物質は存在するか? ~トランスジェニックマウスを用いた突然変異試験結果より~

DOI
  • 鈴木 孝昌
    国立医薬品食品衛生研究所遺伝子細胞医薬部

書誌事項

タイトル別名
  • Are there any germ-cell specific mutagens? -Lessons from the transgenic mouse mutation assays-

抄録

生殖細胞特異的変異原物質は存在するか?これは、遺伝毒性学者に課せられた重要な命題であるが、残念ながらこれまでの研究で十分な解答が得られているとは言えない。その一番の原因は、生殖細胞での遺伝毒性を評価する優れた試験系がないことによる。もちろん、特定座位試験をはじめとしていくつかの試験系は存在するが、簡便性などの点で体細胞を用いる小核試験などと比べて十分に検討されていない。しかし、限られた検討の中で、生殖細胞にのみ変異を起こす物質というものがこれまでに存在しなかったこともあり、「生殖細胞変異原物質は体細胞にも変異を起こすため、体細胞を使った試験の結果から評価できる」とされている。定性的には正しそうであるが、定量的に見た場合にはどうであろうか?トランスジェニックマウスを用いた変異原性試験(TG試験)を使った実験の中で、我々が経験した結果をもとにこの問題を再考してみたい。TG試験は、生殖細胞も含めたすべての組織を解析とできるという点で優れた試験である。反面、感度が低いという指摘もあるが、定量的評価という観点では、実際に生体内で起きている突然変異を正直に反映していると言える。特に生殖細胞については重要性が高く、初期にいくつかの検討もなされてきたが、最近ではあまり報告例がない。生殖細胞ではある程度の防御機構が働いており、陰性結果が得られることが多いことに起因すると考えられる。これまでに陽性結果が得られているのは、ENUなどの典型的な生殖細胞変異誘発物質のみであり、これらは体細胞にも強い変異誘発能を持つ。今回は、体細胞ではそれほど変異誘発能が高くないものの、生殖細胞でも陽性結果を示したマイトマイシンCのデータを紹介したい。また、受精後の変異誘発の可能性など、TG試験においてまだやり残された課題についても、今は現場を離れた立場から、現役のトキシコロジストの皆さんへの提案をさせて頂きたい。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680635842560
  • NII論文ID
    130007004006
  • DOI
    10.14869/toxp.34.0.521.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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