身体機能低下を伴った認知症高齢患者に対する理学療法経験

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抄録

【はじめに】高齢者では罹患をきっかけに全身衰弱を引き起こし,身体・精神機能低下や生活の質も著しく低下することもある。それらに対して理学療法は,機能回復や維持目的に行われるが困難な場合も多く目標設定が難しくなる。臨床では緩和ケアの一環として理学療法が施行されることもあるが,関わり方は様々である。そこで今回,長期にわたって全身状態が低下していった認知症高齢患者2症例の理学療法経験から,終末期の理学療法士の関わり方について考察したので報告する。<BR> 【症例紹介】症例1:70代男性,診断名は小脳梗塞であり,既往疾患は認知症,十二指腸・直腸潰瘍であった。基本動作は食事動作を除いてほぼ全介助であった。本症例では体調不良が食欲低下を助長し,さらに食事動作能力を低下させるという悪循環が問題となった。そのため少なくとも自己摂取は維持できるように、理学療法では食欲や食事動作能力維持を目的に上肢の筋力増強・関節可動域運動,坐位姿勢保持練習等を行い悪循環の解消を試みた。しかし若干の食事動作の維持ができたのではないかと思われるものの身体機能低下や食欲低下は徐々に進んでいくことになった。症例2:90代女性,診断名は左大腿人工骨頭置換術後であり,既往疾患は慢性心不全,慢性腎不全,認知症,腰部椎間板症,両側変形性膝関節症であった。全身状態は意思疎通が困難であり,四肢には強度の関節可動域制限があり寝たきりの状態であった。また寝返りや体動は困難であり表情から不動による苦痛が推察された。理学療法では不動による苦痛の緩和を目的にやさしく関節可動域運動を施行しようとしたが,拒否が強く精神的興奮を高めてしまいさらに苦痛を助長するという悪循環を招くため,興奮の抑制(リラクゼーション)等に有効な体幹へのストロークやポジショニングを併用した。しかし拒否軽減における即時的効果は認められたが、それらは身体機能や基本動作能力の明らかな向上にはつながらなかった。<BR> 【考察】症例1では食事能力低下が栄養状態悪化を招き,それはさらに体力低下や身体機能低下を引き起こすという悪循環を,症例2では拒否によって理学療法が進まないことからさらに不動による苦痛を助長するという悪循環がみられた。これらから理学療法士の役割としては、認知症高齢患者の抱えている悪循環をいかに断ち切ることができるかが重要となると考えられた。しかし,現実的にそれらは非常に困難であり,身体機能の改善が望めない場合も少なくない。従って認知症高齢者の終末期においては,これらの悪循環を断つという考えではなく,症例1では食事機能をできるだけ維持する,症例2では拒否をできるだけ抑制するというように悪循環を緩やかにするという考えをもつことが理学療法士にとって必要ではないかと考えられた。また終末期には理学療法士ができるだけ関わることに意義があるようにも実感させられた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205675825664
  • NII論文ID
    130007007888
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2008.0.109.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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