加齢に伴う筋のco-activationの増加は姿勢制御能力と関連する

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抄録

【目的】<BR> 主動作筋と拮抗筋が同時に活動することを筋の同時活動(co-activation)という.一般に関節に生じる過剰な同時活動は「力み」として表現される.これまで高齢者においては,最大筋力発揮時に主動作筋に対する拮抗筋の活動が増大していることが報告されており,筋出力低下の因子の一つとして説明されている.また,姿勢制御場面での同時活動としては,加齢による立位・歩行時の同時活動の増大が生じる可能性が示唆されている.<BR> 姿勢制御場面での適切な同時活動の増大は、関節の固定性を高め,動作の安定性を向上させるというメリットがある反面、エネルギー効率を低下させるとされている.また,過剰な同時活動の増大は,スムーズな動作遂行を阻害し,例えば高齢者の転倒発生を助長する可能性があることから、同時活動を定量化し、姿勢制御能力の一つとして評価することは重要である。<BR> しかしながら、これらの同時活動と、姿勢制御能力との関連は明らかにされておらず、加齢に伴いどのような変化が生じているのかは不明である。本研究では,若年者と高齢者の姿勢制御時の同時活動を測定し、加齢による影響と、姿勢制御能力と同時活動の関連を明らかにすることを目的とした。<BR><BR> 【方法】<BR> 対象は地域在住・施設入所高齢者46名(82.0±6.8歳)、健常若年者34人(22.1±2.3歳)とした.なお,整形外科的疾患,神経学的疾患を有するもの,重度の認知症症状を有する対象者は除外した.同時活動の測定には表面筋電図(Telemyo2400: Noraxon社製)を用い,利き足の前脛骨筋とヒラメ筋の筋活動を導出した(サンプリング周波:1500Hz).測定動作は、静的姿勢制御として静止立位、動的姿勢制御として安定性限界(前・後)、ファンクショナルリーチ(以下FR)、自由歩行を測定した。筋電図の測定は、静止立位、安定性限界、FRについては安定した3秒間を、歩行については、フットスイッチセンサーより同定した3歩行周期とした.また、立位時の重心動揺、安定性限界の重心移動距離の測定には、床反力計(kistler 9286: kistler社製)を使用した。筋電信号は全波整流化,50msecウインドウでのRoot mean squareによる平滑化処理を行った後,それぞれの筋の最大等尺性収縮を100%とした正規化を行った.正規化された筋電図波形より,Falconerらの推奨する同時活動指標であるCo-contraction index(CI)を用いた.統計解析には、若年群と高齢群の姿勢制御能力、CIを比較するため、正規分布の確認できた変数についてはt検定、正規分布していない変数についてはMann Whitney U検定を使用した。また、各群の姿勢制御能力とCIの関係をSpeamanの順位相関係数を用いて分析した。統計学的有意水準は5%未満とした.<BR><BR> 【説明と同意】<BR> 対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上,同意書に署名を得た.なお本研究は本学の倫理委員会の承認を得ている.<BR><BR> 【結果】<BR> 姿勢制御能力については、すべての項目で若年群が高齢群よりも優れた成績を示した(p<0.001)。筋の同時活動については、安定性限界の後方以外のすべての項目において、高齢群の方が若年者よりも高い値を示した(p<0.01)。姿勢制御能力と同時活動との関連では、高齢群において安静立位(r=0.42, p<0.05)、FR(r=-0.52, p<0.05)で、有意な相関を認めた。安定性限界の前方でも同様の傾向がみられた(r=-0.33, p=0.06)。若年群では、すべての項目で有意な相関を認めなかった。<BR><BR> 【考察】<BR> 本研究の結果、高齢者は若年者よりも姿勢制御場面において高い同時活動を示すことが明らかになった。このことは、加齢に伴い、姿勢制御場面では同時活動を高めるという代償的戦略を用いることを示唆している。また、姿勢制御能力の低下した高齢者ほど、足関節の同時活動が高いという関係がみとめられた。このことは、姿勢制御能力の低下した高齢者ほど、同時活動を高める戦略をとっていることを示している。これら同時活動の増大は、関節の固定性を高めることで安定化を図るというポジティブな影響があると考えられる。しかし一方で、関節の自由度を制限することで、バランス能力を制限しているというネガティブな影響もある可能性がある。<BR><BR> 【理学療法研究としての意義】<BR> 同時活動の増大は一種の適応反応であると考えられる。しかし、それが過剰になる、もしくはあらゆる状況で同時活動を高める姿勢制御戦しか選択できないとすると、同時活動を高める戦略では対応できない場面で、動作の制限や転倒リスクの増大につながる可能性が考えられる。臨床場面では、バランス能力の低下した患者に対してリハビリテーションを行う際には、適切な同時活動の獲得、過剰な同時活動の排除、環境に適応した同時活動戦略を選択する能力を獲得していくことが安定性の向上に重要であるかもしれない。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680653202176
  • NII論文ID
    130007007988
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2010.0.26.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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