義足歩行獲得に難渋した合併疾患を有する高齢切断者の一例

DOI
  • 川崎 真嗣
    和歌山県立医科大学附属病院 リハビリテーション部
  • 小池 有美
    和歌山県立医科大学附属病院 リハビリテーション部
  • 橋崎 孝賢
    和歌山県立医科大学附属病院 リハビリテーション部
  • 上西 啓裕
    和歌山県立医科大学附属病院 リハビリテーション部
  • 田島 文博(MD)
    和歌山県立医科大学附属病院 リハビリテーション部

抄録

【はじめに】近年、糖尿病や末梢循環障害による高齢下腿切断者が増加している。なかには、加齢や合併症による筋力および運動耐容能低下のために、義足歩行に至らない症例もみられる。今回、下腿切断術を施行された高齢症例に対して義足作製を検討し、創傷治癒に難航しながらも良好な結果が得られたので報告する。<BR>【症例】糖尿病性壊疽により左下腿切断術を施行された70代女性。身長150cm、体重47kg。糖尿病は約30年前に指摘され、現在HbA1c は6.1%であるが、食前30分の血糖値は40-250mg/dLとばらつきがみられる。合併症として、慢性腎不全や糖尿病性網膜症、両下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)、慢性心不全があった。慢性腎不全に対して、2年前より週3回の人工透析が施行されているが、透析中に収縮期血圧が60台に低下することもあり、施行後は気分不良の訴えが多い。切断前ADLは身の回り動作は全て自立し、移動は独歩で可能だったが、ASOの影響により長距離歩行は行っていなかった。<BR>【開始時所見】意識清明、認知面の問題なし。視力は右0.06、左0.1。心機能は、左室収縮能低下と軽度の僧帽弁狭窄が認められ、EFは41.5%であった。左下腿は膝関節裂隙から15.5cm末梢で切断忘失され、創部はやや離開し周囲に出血と浸出液を認め、圧痛が著明であった。幻肢はあったが幻肢痛の訴えはなかった。関節可動域は左膝関節伸展-10°だったが、他に著明な制限はなかった。筋力はMMTで両上肢4レベル、右下肢と左股関節周囲筋4レベル、左大腿四頭筋4-、左ハムストリングス3。ADLはFIMで79点、移動は車椅子護送で移乗動作は軽介助、トイレおよび入浴動作軽介助。ASOについては、両膝窩動脈、右足背動脈ともに触知不良、ABIは0.56だった。<BR>【リハ経過】手術2日後に出血性胃潰瘍のため3日間ICU入室。理学療法は術後2週目から1日2回、関節可動域訓練や筋力増強訓練、膝歩き、ハンドエルゴメーターを用いた全身調整運動等を開始し、病室でも断端訓練や自主トレーニング指導を行った。また、翌週よりエアバック義足を用いて歩行訓練開始。術創部は12週後に治癒し、義足採型に取り掛かった。16週後、チェックソケット装着下で、両T字杖を把持し見守りで約30m程度歩行可能となった。10m歩行スピードは24秒であった。20週後、TSBタイプの仮義足が完成し、両T字杖を把持して見守りで病棟内を移動できるようになった。徐々に屋外歩行や階段昇降も可能となり、22週目には近医に転院となった。転院時、創部に圧痛や著明な関節可動域制限は無く、筋力は右上下肢と左股関節周囲筋5-レベル、左大腿四頭筋5-、左ハムストリングス4に改善。ADLは大幅に改善し、FIMでの評価は120点であった。歩行についても、10mのスピードは13秒となり、長距離は車椅子自走で移動するものの、坂道歩行や段差昇降などの応用歩行も可能となった。<BR>【考察】本症例は出血性胃潰瘍や糖尿病による術創部治癒遅延のため、義足歩行獲得に難渋した症例である。糖尿病の他にも心不全や腎不全、ASOの影響により筋力や運動耐容能が低下し、活動量が減少していた。糖尿病患者では、末梢循環不全のため創傷治癒が遅く、義足歩行に至るまでに可動域制限や廃用による全身の機能低下をきたしやすい。そのため下腿切断者では、術後早期から創が治るまでの期間に四つ這いや膝歩き、バルーンを用いた切断側への荷重訓練を行い、歩行へのイメージを継続することが重要である。さらに、本症例は長時間の立位負荷が困難だったため、ハンドエルゴメーターを利用して運動耐容能向上を図ってきた。また、たとえ透析日であっても、リスク管理を行いながら全身調整運動などを行い出来るだけ運動量獲得を心がけた。今回の症例から、高齢で人工透析を受け低活動な症例に対しても、その日の状態に合わせたリハプログラムを継続し、活動量向上を図っていくことで義足歩行獲得は難しいことではないことが分かった。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205676540288
  • NII論文ID
    130007008026
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2010.0.67.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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