バブル経済崩壊後の大阪大都市圏における戸建住宅供給

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タイトル別名
  • Detached Housing Development in the Osaka Metropolitan Area after the Collapse of the Bubble Economy
  • 既成市街地での供給を中心に
  • Focusing on its built-up areas

抄録

1.研究の背景と目的 日本の都市地理学研究では,バブル経済崩壊後の1990年代後半以降,都心回帰の議論が盛んになり,都心部・湾岸部でのマンション供給やその居住者属性に対して強い関心が向けられてきた.さらに,都心部でのマンション供給と都心回帰現象に対して,郊外での戸建住宅地の衰退と郊外化の終焉という二分法的理解に関心が固定化され,日本の大都市圏における1990年代後半以降の戸建住宅供給については十分に明らかになっていない.そこで本研究では,バブル経済崩壊後の戸建住宅供給の動向について,都市圏の縮小についての議論もされている大阪大都市圏を対象に,分析する.そして,その時代の社会経済的状況の変化が戸建住宅開発にどのように影響しているのか検討することを目的とする.<br> 2.研究方法 戸建住宅の供給に関する資料については,ミニ開発も多く,網羅的で信頼できるデータが得難い.このようなデータソースの入手可能性を考慮して,本研究では住宅に関する公的統計として主に住宅着工統計,住宅・土地統計,国勢調査の3統計を利用する.特に小地域単位の分析では,戸建住宅の直接的な供給データではないものの,国勢調査の地域メッシュ統計と町丁字別集計データを利用する.また,土地利用に関しては,細密数値情報(土地利用メッシュ)や住宅地図などを用いて,戸建住宅開発の従前の土地利用について検討するとともに,上記資料からは調査することが困難である,用地の売買から住宅開発に至る経緯について,大阪市周辺で建売住宅を手掛ける不動産業者などにインタビュー調査を行った.<br> 3.結果と考察 離心的な供給が前提とされてきた戸建住宅供給は,バブル経済の崩壊後,大阪市の周辺区・隣接市へやや回帰的な傾向を示している.そこでは,1990年代後半に建売住宅を中心に戸建住宅の供給が急増したが,2000年代半ば以降は縮小傾向にある.住宅の建て方別人口の推移をみても,1990年代に周辺区と隣接市は戸建住宅に住む人口の増加が共同住宅に住む人口の増加を上回るという大きな変化を経験した.また,住宅開発の地理的分布を検討したところ,戸建住宅に住む世帯が大きく増加した地域の多くは高度経済成長期以前に都市化された既成市街地内に分布し,そこでは人口増加地区と人口減少地区がモザイク状に分布している.特に戸建住宅に住む世帯が集中的に増加している,都心からみて南東セクターの地域は,大阪を対象にした都市地理学の先行研究でインナーシティやスプロール地区としての性格を有することが指摘されている. 大阪市内の住宅開発に着目すると,そのほとんどが10戸未満の比較的小規模な開発である.地理的分布をみると,都心部を取り囲む既成市街地のうち,都心からみた北西セクターの地域を中心に,工業地における事業所の閉鎖・縮小・移転に伴う比較的大規模な開発がみられた.その一方で,南部の密集住宅地と東部の住工混在地域を含む,都心からみた南東セクターにあたる地域では,住宅や中小事業所,駐車場などの低未利用地を従前の土地利用とする小規模な住宅開発がみられた.そこでは,土地所有者の死亡による相続,住宅の老朽化,後継者不在による事業所の廃業,事業所や駐車場の経営悪化などを契機に不動産が売却されている. このように,バブル経済崩壊以降,従来の都市地理学の理解に当てはまらない住宅開発として,インナーシティやスプロール郊外という特徴を持つ既成市街地での再開発的な戸建住宅供給がみられた.しかし,それは人口減少や住宅の老朽化の進む地域における小規模で断片的な更新であり,人口増加には必ずしもつながっていない.そして,そのような戸建住宅開発には,バブル経済の崩壊といった経済的要因のほかに,住民の高齢化や住宅の老朽化といった人口と住宅のライフサイクルが影響している.以上の知見は,これまでの都市地理学における都市圏構造と住宅供給の関係についての二分法的理解が不十分なことを示している.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671643008
  • NII論文ID
    130007017627
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100059
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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