教職員を対象とした森林・林業教育研修の現状と課題

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  • 岐阜県を事例として

抄録

1.はじめに 近年、森林・林業政策において、森林・林業に対する国民の理解促進の必要性および子どもたちの生きる力の育成を掲げる教育政策との連携により、「森林環境教育の推進」が掲げられている。その中で、指導者の養成確保や総合的な学習の時間等、学校教育での取組み増加の観点から、教職員への研修が国・県レベルで進められてきているが、その実態は明らかでない。本研究では、H.12年度から「教職員等森林・林業教育研修事業」を県下全域で展開している岐阜県の事例について、実施体制および参加者の意識に関する実態把握を行い、その現状と課題を明らかにすることを目的とする。2.研修実施体制等に関する聞き取り調査結果 岐阜県では「文部省・農林水産省連携の基本的方針(H.11.1.策定)」を主なきっかけに、それまで一部地域のみで実施されていた教職員対象の森林・林業教育研修(以下研修)を全域展開の事業とした。 実施体制としては、県庁林業振興室(以下県庁)は主に県庁教育機関との連絡調整を行い、研修の企画・実施は各地域の県農林商工事務所(以下県事務所)の林業改良指導員〔AG〕に原則一任される。そのため教育側との連携度合い・研修内容等は各地域の担当事務所ごとに異なるが、間伐を中心とした林業体験をメインプログラムとする点は共通であった。また、H.15年度実施の9回中7回が初任者研修(小・中学校対象)に組込まれて実施されたため、初任者の86.1%(211名)が本研修を受講する結果となった。ただし中には、都市部の県事務所で、70名もの初任者対象の研修を1名のAGが企画から運営までのほぼ全てを担当しているケースも見られた。なお、県庁では研修の目的として「指導者の養成」を掲げているが、実際の研修では基本的に教職員を林業の初心者と捉え、森林・林業の大切さ・大変さ等を理解してもらい、学校でも活かしてもらいたい、というスタンスであった。3.研修直後の参加者意識に関するアンケート調査結果 アンケート調査票は各県事務所担当者を介して研修直後に配布し、全地域合計241名の回答を得た(回収率100%)。 「最も印象に残ったプログラムは何か」という問いに対しては、9回中7回の教員研修で林業体験が最も多く選択された。あわせて「各プログラムへの評価」のうち林業体験について見ると、“満足”173名(71.8%)、“やや満足”59名(24.5%)、“どちらとも言えない”7名(2.9%)と、高い評価を得た。また、「研修を受ける以前と比べて、森林・林業に対する興味・関心は高まったか」という問いに対しては、“高まった”145名(60.2%)、“やや高まった”92名(38.2%)“ほとんど変わらない”4名(1.6%)となり、「研修を受けてみて、児童・生徒にも森林・林業を題材とした取組みをさせてみたいと思ったか」という問いに対しては、“はい”213名(88.4%)、“どちらとも言えない”27名(11.2%)、“いいえ”1名(0.4%)となった。4.考察 現在県下で多く実現されている、初任者研修に組込んだ形での研修の実施は、県教育事務所の協力のもと参加者を確実かつ比較的容易に確保できるという点で高く評価されよう。 しかし、各地域のAGが企画・調整・準備・指導などほとんどすべての役割を担うことにより支えられている現在の研修は、AGの負担の大きさに加え、林業普及指導事業の在り方の見直しにより、普及組織について「少数精鋭の体制で多くの課題に対応していくことが求められて」いくことから、今後の継続可能性には不安が残り、また参加者数が多い場合にも対応できるだけの体制であるとは言い難い。 また一方で、参加者への事後アンケート結果では、日常生活ではあまり体験する機会のない森林体験・林業体験について、高度な専門知識を備えたAGから親切できめ細やかな指導が受けられたことが、研修への高い評価につながったと推察される。このことは初任者研修の一目的である「幅広い知見を得させること」と関連し、教育側のニーズに対応した事業になっていると言えよう。今後は林野側の当初のねらいである、研修後、学校に戻ってからの実践や生徒への波及について確認するために、過去の研修参加者を含めた追跡調査が必要である。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205703063552
  • NII論文ID
    130007019661
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.p2002.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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