ロンドンにおける韓人移住とトランスナショナリズム

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タイトル別名
  • Korean Migrants and Transnationalism to London, UK
  • -移住者の居住地選択および教育経験を事例に-
  • -Perspectives on Residential Location and Educational Experience-

抄録

1.はじめに<br><br> グローバル化の進展による世界経済の統合と,通信・交通技術の発展によるモビリティの増加は,より多くの人々の国際移動を可能とさせた.過去の国際移住は先進国での経済的安定とホスト社会への同化を追求する永住型移民が多かったが,近年は移住の目的や様相が多様化し,中でも多方向的な移動や母国との強い結びつきを特徴とするトランスナショナルな移住が見られるようになった.<br><br> 世界政治・経済の中心地となってきた先進国の大都市は,かつても多くの移民を受け入れてきたが,グローバルシティとしての機能を持つようになった一部の都市では1980年代以降,国際移住者を急激に吸収した.トランスナショナルな移住者集団は主にグローバルシティに流入し,独自の生活空間やネットワーク,文化を築き上げ,都市のあり方を変化させている.<br><br> そこで,本研究では,グローバルシティとしての大都市に集まる新たな移住者は,従来の移民とは異なり,移住のあらゆる面においてトランスナショナルな性格が色濃く現れていることを確認したい.具体的には,韓国系移住者(以下韓人)を事例に,移住の目的や移住歴,居住地,ロンドンでの生活状況を分析し,新たな移住者の移住戦略と行動を把握しようとした.本研究にあたっては,2015年8月,2017年3月および6月に現地調査を行い,移住者個人および教育機関関係者から得たヒアリング資料を収集・分析した.<br><br><br><br>2.事例地域の概要<br><br> 本研究では,イギリス・ロンドン市を選び,特に韓人の集住地であるニューモルデン地区,ならびに分散的な居住が見られる市内中心部に注目した.ロンドンにおいては,かつて旧植民地や英連邦出身者が移住者の多くを占めていたが,グローバル化やEU結成とともに他地域からの移住者も増加した.韓人の移住は1980年代から本格化しており,ロンドンにおける韓人人口は市内全体で約2万人,そのうちニューモルデン居住者は約1万人に上る.ニューモルデン地区には韓人商業施設も集積しており,コリアタウンとして認識されている.<br><br><br><br>3.知見<br><br> 本研究から得た結論は以下の3点である.<br><br> 1点目は,1980年代以降ロンドンに移住した韓人は高学歴・高所得の専門職従事者が多く,一般的に想定される永住目的の労働移民とは区別される点である.このような韓人移住者集団の存在から,ロンドンのグローバルシティ化が既存の移民以外にもトランスナショナルな移住を新たに引き起こしてきたこと,ならびにロンドンが経済的,社会的,文化的資本が集中したグローバルシティであるからこそ移住者が発生していることがわかる.<br><br> 2点目は,ロンドンにおける韓人の居住地分布は,新たな移住者の性格から,既存の移住理論で想定されていた立地とは異なる様相を見せる点である.韓人はエスニック・エンクレイブでの集住とホスト社会への同化という過程を経ないで,ロンドンにおいて就職・転勤・留学している.そのようなキャリアパスに合わせて,駐在員や家族連れの移住者は,ニューモルデン地区でゆるやかな集住を行っており,集住地の性格もエスニック・エンクレイブよりは民族郊外に近い.また,若年層や単身者層は郊外より都心の良質な居住地を好むため,市内中心部に分散し居住している.<br><br> 3点目は,韓人の居住地選択とコリアタウンの立地からは,教育面においてトランスナショナルな側面が著しく見られる点である.韓人移住者は,今後のさらなる国際移住の可能性を考慮しながら自分や子供の教育を行う.そのため,成人の場合はロンドン市内の名門大学,子供の場合は現地の小中高等学校への進学を志向しており,居住地選択にも影響を与えている.ニューモルデン地区の立地も評価の高い学区と関連があり,より良い教育を求める様子が伺える.また,ニューモルデンのコリアタウン内にある名門校入学のための韓国人向け学習塾においては,韓国本土でみられる塾文化が移植されるなど,移住母国との強いつながりもみられる.本発表では,留学生・保護者・教育機関関係者とのインタビューデータを用い,トランスナショナルな国際移住を考慮したキャリアパスの設計が移住先の居住地選択と集住地の教育文化に及ぼす影響を論じる.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763019224064
  • NII論文ID
    130007412048
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000253
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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