歯科から考える転倒予防

  • 山本 龍生
    神奈川歯科大学大学院歯学研究科口腔科学講座社会歯科学分野

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タイトル別名
  • シカ カラ カンガエル テントウ ヨボウ

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抄録

<p> 超高齢社会となった日本では転倒予防が重要な課題となっている。筆者らはコホート研究によって,歯の健康と転倒との関連を検討した。過去1 年間に転倒経験のない65 歳以上の1,763 名を対象として3 年間追跡した結果,19 歯以下で義歯未使用の者は,20 歯以上の者に比べて,3 年後の転倒リスク(オッズ比)が2.50(95% 信頼区間:1.21 ~5.17)倍高いことが明らかになった。</p><p> 歯数と大腿骨近位部骨折との関係は,日本の50 歳以上の男性歯科医師9,992 名を平均6 年間追跡した研究によって明らかになっている。歯数が14 ~ 28 の者を基準として,1 ~ 13 および0 の者は,骨折リスクがそれぞれ4.1(95% 信頼区間:1.2 ~ 14.2),4.5(1.1 ~ 18.0)倍高いことが明らかになった。また,歯を1 本失うごとに骨折のリスクが1.06(1.01 ~ 1.12)倍高くなることも明らかになった。</p><p> ヒトは頭部が重いために身体の重心が上半身にある。そして,咀嚼筋や歯根膜から脳に向かう求心性の線維によって頭部の平衡が維持されている。そのため,歯の喪失や義歯未使用による咬み合わせの喪失は,咀嚼筋や歯根膜からの神経伝達を減少させて頭部を不安定にし,その結果,身体の重心が不安定になり転倒しやすくなる可能性がある。現在,日本人の70 歳以上では,平均歯数が20 を下回っている。平均寿命が世界トップクラスの日本では,転倒を防止して健康寿命を延ばすためにも,高齢になってもできるだけ多くの歯を維持すること,すなわち歯を失う原因である歯周病とう蝕(むし歯)の予防がますます重要になっている。</p>

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