論文執筆・学会発表のための基本的な統計解析

DOI
  • 松葉 潤治
    帝京科学大学 医療科学部 東京理学療法学科

Abstract

<p> 理学療法分野の臨床研究において,回帰分析が頻用される。回帰分析にもさまざまな種類があるが,重回帰分析,ロジスティック回帰分析,Cox回帰分析は基本的な解析手法といえる。しかし,Cox回帰分析は疫学分野や臨床試験においては必須の統計手法であるものの,理学療法分野では,重回帰分析,ロジスティック回帰分析ほど一般的ではないように感じられる。</p><p> Cox回帰分析は,生存時間解析の一手法である。生存時間解析(survival analysis)とは,興味のあるイベントが起こるまでの時間を結果変数とした解析手法である。イベントとは,ある人やモノに起こりうる任意の興味ある事象をいう。医学分野では,死亡,疾病の発症や回復,工学分野では,機械やシステムの故障,経済分野では失業や会社の倒産などが取り扱われるイベントである。このようなイベントの生起のことを広義の死亡とし,それまでの時間を生存時間と呼ぶこととする。</p><p> </p><p> 生存時間は,イベントが発生するまでの時間を計測するが,イベント発生前に観察が中止されることがある。すなわち,観察の「打ち切りデータ」の存在が生存時間データの大きな特徴である。一般的に打ち切りが起こるのは以下の3つの場合が考えられる。1)観察終了までにイベントが起こらなかった。2)観察期間に追跡不能となった。3)なんらかの理由で観察から脱落した。「打ち切りデータ」をも含んだ解析ができることが生存時間解析の利点であるが,通常の推定・検定方法が適用できず生存時間解析特有の解析手法を用いる必要がある。</p><p> </p><p> まず,生存時間データの定義や特徴と解析事例を示しながら,生存時間解析の概要を説明する。次にCox回帰分析を取り上げる。Cox回帰分析では,生存時間を従属変数とすることができない。これは重回帰モデルとの大きな相違点といえる。理由は「打ち切りデータ」が存在するからである。そこで,ハザード(瞬間死亡率)を従属変数として,ハザードが説明変数にどの程度の影響を受けるかをモデル化する。ハザードとは,ある時点まで生存したという条件下で,次のごく短い時間に死亡する確率をその短時間当たりに換算した率をいう。ハザードモデルの構築により「67歳,女性,ステージⅣの人の5年生存率は32%である」との推定が可能となる。Cox回帰分析の理論と解析事例,注意点を概説する。</p>

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001288157836800
  • NII Article ID
    130007693590
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h1-56
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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