痙直型脳性麻痺患者におけるH反射の特徴と持続的ストレッチが脊髄前角細胞の興奮性に及ぼす影響のpilot study

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抄録

<p>【はじめに】脊髄前角細胞(α運動ニューロン)を含めた二次ニューロン情報が得られるH波に関して、振幅の増大や潜時差の短縮など中枢神経障害に伴う二次的な末梢神経障害の存在が示唆されている。脳性麻痺でH波の報告はこれまでにない。一般的にヒラメ筋から導出されるH波は、拮抗筋の収縮やストレッチ後に神経学的要因が関与することで低下するが、下肢随意性の低下した脳性麻痺患者で健常者と同様の結果が出るかは不明である。そこで本研究の目的は、第一研究で痙直型脳性麻痺患者におけるH反射の特徴を明らかにし、第二研究で持続的ストレッチが脊髄前角細胞の興奮性に及ぼす影響を調査することとした。</p><p>【方法】第一研究の対象は粗大運動能力分類システムレベルⅠ~Ⅲの脳性麻痺患者12名(Ⅰが2名、Ⅱが3名、Ⅲが7名、平均16.5歳、12~30歳)と健常者14名(平均18.5歳、18~20歳)とした。除外基準は過去6カ月以内に観血的治療を受けた者とした。測定は利き足で行った。皮膚の状態を観察、触診し異常がないことを確認後、電極設置位置の皮脂、汚れを落とし、ヒラメ筋上に導出電極を、外果にアース電極を設置した。H波の測定は安静腹臥位とし、誘発電位検査装置の刺激電極を膝窩部に設置し、最大のH波を確認できるところまで電流量を上げ、3回のデータを記録し、H波の振幅値を読み取った。次に足関節を等尺性に背屈し、同様に最大のH波を導出した。各群で安静時に対する背屈時の振幅値変化率を算出し、対応のないt検定にて検討した。統計処理にはSPSS statistics ver.19 を使用した。</p><p> 第二研究の対象は脳性麻痺患者4名(レベルⅠが2名、Ⅲが2名)、健常者4名とした。持続的ストレッチは傾斜板を用いて、足関節に痛みの出ない範囲で伸長感の得られる状態にて3分間立位を実施した。ストレッチ前後のH波の振幅値を読み取り、対象ごとにストレッチ前後の振幅値変化率を算出し検討した。</p><p>【結果】H波の振幅値変化率は脳性麻痺患者が104.7±40.9%、健常者が65.1±32.6%と脳性麻痺患者が有意に高かった。</p><p> ストレッチ前後の振幅値変化率はレベルⅠの患者が66%、78%と低下し、レベルⅢの患者2名が108%と上昇し、健常者は87±13%と全例低下した。</p><p>【考察】脳性麻痺患者では健常者と比べ背屈時のH波の振幅値変化率が大きかったことから、脳性麻痺患者の足関節では相反抑制による筋の興奮性が低下しにくかったと考えられる。また、健常者とレベルⅠの脳性麻痺患者ではストレッチ後のH波の振幅低下を確認できたが、レベルⅢの患者ではストレッチ後にH波の振幅が上昇した。ストレッチ後の関節可動域増大には筋や腱の粘弾性の変化である生理学的要因と脊髄前角細胞の興奮性を含めた神経学的要因が関与する。痙直型脳性麻痺患者は健常者と比べてH反射の調節能力が低下することが示唆された。今後は対象の運動レベルやH波の特徴を考慮し、ストレッチ方法の再考が必要と思われる。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究は東京工科大学倫理審査委員会の承認を得て行った。対象者と保護者には口頭と説明文書にて研究内容を十分に説明した後、同意を得た。本研究への協力を断っても、今後の診療や通院、学内教育には何ら支障のないこと、一度同意した後でも同意を撤回できることを口頭と書面にて伝えた。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), J-44_2-J-44_2, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845713088787072
  • NII論文ID
    130007694377
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.j-44_2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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