通常診療活動の中での漢方薬の利用価値

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抄録

漢方は,中国を起源とする東アジア伝統医学の日本での名称である.その中でも,特に日本で発達したものを指す場合もある.漢方は日本でも明治時代になるまで正式な医学であったため,現代医学の対応するほぼ全ての問題に対して,対応する方法論を開発してきた.従って,通常診療活動においても漢方が応用できる場合は臨床のほぼ全ての局面といってもほかならず,極めて広範囲である.漢方には薬物療法である漢方薬をはじめとして,鍼灸や按摩などの物理療法,瞑想・導引(どういん:道家で行う一種の治療法・養生法)といった心理・運動療法が存在するが,ここでは漢方薬を,中心に現代の通常診療活動における漢方薬の利用価値について論じてみたい.<br>一般に,漢方薬は慢性疾患や疾患診断以前の症状に対して,長期にわたり投与するイメージを持たれているが,医学は急性の進行・重篤な病態を改善するニードとともに発達してきているため,当然,漢方も急性疾患のために本来開発されてきた.特に日本の医療用漢方製剤147方剤のうち,およそ半分は西暦200年ごろに原型ができたとされる当時流行した致死的な急性感染性疾患に対するマニュアルである『傷寒論』と,その姉妹本ともいうべき『金匱要略』を出典とするため,特に急性期疾患に向いたラインナップといえる.今日の通常診療でも急性疾患の対応は欠かせないものであり,急性疾患への漢方薬応用の実際も述べたい.<br>また漢方には,西洋医学のように病原を排除するという治療法のみならず,闘病機能や生理機能を高める,増強するという「補」という治療方針を実行することが出来る処方が存在している.超高齢化や医療の進歩に伴って,以前には考えられないほど多重の合併症を抱えた患者を通常診療場面でも多く認めるようなった.こうした人々に対して,その闘病能力,生理機能を高める治療は大きな福音と成り得る.この観点からの漢方薬応用の実際も述べることとしたい.<br>以上を踏まえて,現在日本でしばしば応用されている漢方薬の日常臨床への応用法を紹介してみたい.

収録刊行物

  • ファルマシア

    ファルマシア 56 (3), 193-197, 2020

    公益社団法人 日本薬学会

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