心疾患患者における呼吸機能評価の臨床的意義

DOI

抄録

<p> 理学療法士として心疾患患者に関わるうえで,運動時の呼吸困難や呼吸様式の変化に着目することは多い。しかし,心疾患患者における呼吸機能について調査した報告は未だ少ないのが現状である。</p><p> 一般に,努力肺活量や1秒量といった肺機能の低下,あるいは呼吸筋力の低下は,心疾患発症のリスク因子として知られている。最近の大規模研究は,COPDなどの肺疾患自体が,心不全や虚血性心疾患の発症と有意に関連することを報告している。また,心疾患患者における肺機能の低下は,心血管イベントの再発リスクを上昇する。一方,心不全患者では,潜在的なCOPDが約20%も存在する。心不全とCOPDは,労作時の呼吸困難や閉塞性換気障害など類似した症状をいくつか有することから,それぞれを独立して診断することが困難な場合が多いとされている。従って,心疾患患者に対する呼吸機能測定は,病態把握やリスク層別化のために重要と考えられる。</p><p> また,心不全患者では労作時の呼吸困難を頻繁に認めるため,運動耐容能が制限されQOLが低下する。運動耐容能の低下には,心機能や骨格筋機能の低下に加え,肺血管拡張障害や換気血流不均衡,肺拡散能低下ならびに呼吸筋疲労といった呼吸器系の機能障害も関連する。我々は,呼吸筋力が低下した慢性心不全患者において運動時にrapid-shallow breathing patternを生じ,死腔換気率を増大して運動耐容能を低下することを報告した。従来,呼吸筋力は,圧トランスデューサをスパイロメータに接続して最大呼気圧(PEmax)および最大吸気圧(PImax)の測定によって評価する。特に慢性心不全患者では,PImaxが健常者の約70%まで低下することが知られている。左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者では,呼吸筋力低下が約50%に認められ,PImaxはHFrEF患者の予後予測因子となる。また,左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)患者における呼吸筋力低下の合併率と予後を調査した我々の研究では,呼吸筋力低下を有するHFpEF患者は40%に認められ,呼吸筋力が維持されたHFpEF患者と比較して生存率が有意に低下していた。</p><p> 本シンポジウムでは,心疾患患者における呼吸機能評価の臨床的意義について最近の知見を紹介し,心不全患者における呼吸筋評価の有用性と理学療法介入について病態生理学的な視点も交えて解説する。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390569015603281920
  • NII論文ID
    130008011518
  • DOI
    10.14900/cjpt.47s1.g-1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ