慢性重症呼吸不全患者に対し,精神心理面に着目した介入がADL の改善に影響を与えた一例

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抄録

<p>【はじめに】</p><p>慢性呼吸不全患者において精神心理面の悪化は,換気デマンドを増加させ呼吸困難感を増長することが知られており,その点に対する介入は重要と思われるが,その報告は少ない.今回,強い呼吸困難感によりADL の改善に難渋した慢性重症呼吸不全患者に対し,精神心理面に着目した介入が奏功したため報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p>症例は70 歳代男性,気管支拡張症にてX-21 年より当院かかりつけの患者である.数ヶ月前より呼吸困難感が増悪し,外出は困難な状態であった. 今回,熱発と呼吸困難感による体動困難にて緊急入院となり,緑膿菌肺炎の診断で抗生剤治療及び全身管理が開始された.</p><p>【経過】</p><p>入院第2 病日より理学療法開始.意識清明でコミュニケーションは可能であるが,酸素4L/ 分投与下でSpO2:94%,呼吸数35-40 回で努力呼吸を認め,mMRC grade4 と強い呼吸困難を呈していた.また,気道分泌物貯留の所見も認めたが,自己排痰は困難であった.以上のことより,全身状態を考慮し,ベッドサイドにて体位ドレナージやハフィング指導などのコンディショニングを中心に介入した.その後,経過とともに全身状態は改善を認め,第9 病日より端座位練習を開始した.酸素1-2L/ 分投与下でSpO2:95% 以上を維持できており,また,炎症反応も改善傾向にあったが,安静時の呼吸困難感はNRS:7-8 と高値であり,起居動作による疲労感や呼吸困難感の増強もみられたため,座位保持時間の延長や車椅子移乗練習は実施困難であった.そのため,Barthel Indexは5 点とADL 低下を認めた.また,介入の中で自身の予後や自宅退院についての悲観的・消極的な発言が聞かれることが多く,第19 病日にHADS を実施したところ,不安14 点,抑うつ11 点と高値を示した.したがって,本症例の全身状態と一致しない強い呼吸困難感の原因として精神心理面の影響が大きいことが考えられた.そのため,症例の理学療法への主体的な参加と自己効力感の向上を促すため,患者の考えや気持ちの傾聴,目標の共有を図った.その中で自宅退院への希望と不安が聞かれたため,当面の目標としてトイレ動作の自立を立案し,車椅子移乗練習から開始した.開始当初は労作時の呼吸困難が強く,実用性に欠ける状態であったが繰り返し目標を提示しながら介入を行うことで,患者本人から意欲的な発言を引き出し,積極的に練習を行うことができた.その後,第24 病日に肺炎が再発しHigh Flow Nasal Cannula 管理となるが,その際も離床に関して自発的な反応が得られ,継続した介入が可能であった.第45 病日からは歩行練習を開始し,成功体験を積み重ねることを目的として短距離歩行を行い,徐々に距離を延長していくこととした.また,一連の介入に当たっては課題達成時に正のフィードバックを与えることを意識し介入を行った.第57 病日にはHADS 抑うつ8 点と改善を認め,強い呼吸困難感は残存していたものの酸素カートを使用し連続5m 程度歩行が可能となり,BIは20 点まで改善を認めた.第65 病日に回復期病院へ転院となった.</p><p>【考察】</p><p>本症例は,全身状態や酸素化能の改善後も安静時・労作時の強い呼吸困難感が残存したことが理学療法介入における制限因子となった.経過の中で換気デマンドの増加に影響を与える因子である,抑うつ・不安が認められたため精神心理面への介入を行った.その結果,呼吸困難感は持続したが抑うつの改善を認め,リハビリテーションへの意欲を維持し,ADL の改善を図ることができた.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本報告はヘルシンキ宣言を遵守し,報告に関して対象者に説明し,同意を得た.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390009483099774208
  • NII論文ID
    130008154736
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2021.0_55
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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